久しぶりに親戚が集まった正月。伯父はお酒も力も相まって、いつも以上に饒舌になっていた。
「近頃は面倒で、利口じゃない女が多いっ!あんな女の旦那は苦労するわ」
くどくどと語りモードに入ったのを察して、母がそっと席を外す。また、私か。
笑顔を能面に張り付けた首振り人形になるのはもう慣れっこ。つまりは聞いているふりだ。
「それに引き換え、うちのはその点よくできとった」
あれ、惚気か。人形化を解く。

◎          ◎

「旅行の行先を決めるのにしても、僕が仕事でいない間に自分の興味のある所のパンフレットだけをテーブルに置いとく。すると帰った僕がその中から好きなのを選べばいいわけよ。何にも考えず全部のパンフレット置いて、ここは嫌だの言われたらお互い嫌な気持ちになるだけ。そういう無駄な争いをしないっていう発想があいつらにはないんだろうね」
珍しく愚痴以外の話かと思えば結局そこに落ち着くのか。近所のゴシップ好きなおばさんが、伯父に色んなことを根掘り葉掘り聞くものだから鬱憤が溜まっているようだ。

「なつめちゃんは利発な嫁にならんといけんよ」
再び人形になろうとしたのに名前を呼ばれてピクリとする。
「例えば、夫婦2人暮らしで、ご近所さんから饅頭を3つもらったとする。旦那は夜遅くならないと帰らない。なつめちゃんならどうする?」
「えっと、そうだな……」
この理屈っぽい人に下手な答えはできない。考えをめぐらしていると私の返事を待たずに言う。

「僕はね、1つ先に食べて、残りの2つを夜一緒に食べるのが賢いと思うんですよ。別に旦那には3つもらったとか分からないんだし、律儀に1.5個ずつなんてしなくていい。晩御飯だって待たなくていい。ただ、『一緒にお饅頭を食べようと夜遅くまであなたを待ってましたよ』っていう健気さを演じてくれればいい。
男なんて単純なんですよ。そっちの方が女性側も我慢がなくていいんだから不満も溜まりにくいでしょ?」

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別に素をさらけ出してぶつからなくていい。避けられる喧嘩は避ければいい。臭い物には蓋をすればいい。演技をしてもいい。一生を共にするパートナーだからこそ計算高くあれ。

夫婦ってそういうもんよと、珈琲をすする姿は、いつもの理屈っぽい面倒な伯父のはずなのに、大人の渋さが滲んでいてちょっと格好良い気がした。

夫婦なのに、ずる賢く、手の平で転がすのもありなのか。むしろ、それが円満の秘訣か。
いや、きっと円満なんて甘いことのためではない。他人同士が生きていくための知恵と気遣いだ。狡猾な頭脳戦でさえ愛と呼べるような、心地よい距離感が伯父夫婦にはあるような気がした。

◎          ◎

いつか結婚するとしても、私は歯の浮くようなラブラブな結婚生活なんて望まない。ただ、同じ空間で同じ空気を吸えるくらいの親しさと、その親しき仲で礼儀を忘れないで居続けるのを忘れない心を持てるような人がいい。そうでなければ、結婚しなくても生計を立て、幸せにだってなれる時代に結婚する意味などない。

私が赤の他人の前であくびをして、タッパーに入ったままのおかずを食卓に並べて、よれよれになったパジャマ姿を見せられるようになる未来は想像ができない。
けれど、いつかそれほど気を許し過ぎるくらいの人に出会っても、そこまででないにしても、結婚したら、お饅頭を1つ、隠れて食べるような奥さんになれたらいいと思った。