大学時代最後の冬は、知人と過ごした冬だった。
知人とは6月に出会って以来半年一緒に暮らしてきたけれど、バイトが終われば毎日会えることが奇跡のように嬉しかった。
バイトの終わりに、夜空に浮かぶ大きなオリオンを背負って駅で待つ知人。コンビニで私の好きなタルトと温かい飲み物を買ってくれていた。手を繋いで帰る5分間が、とても愛しかった。
もう何年経ったか覚えていないけれど、あの時よりもずいぶん歳を重ねてしまった私は、冬が来る度に知人のことを、あの頃の如く鮮明に思い出す。

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バイト先で知り合った知人は、私の2つ上の好青年である。
初めて会った日から好きなアニメの話などで盛り上がった。その次の日、ちょうど私が休みだったため、地元の大きな神社へ観光に出かけることにした。なんたるフッ軽さ。あるいは若さ。
神社詣での日は、本殿にお参りをしたあと、門前町で食べ歩きをした。多分いちばんその時が幸せだった。6月も半ば、蒸し暑い一日であったけれど、我々は名物のかき氷を食べたり私の好きなキャラクターのお茶屋さんでのんびりしたり、ゆったりとした穏やかな午後を過ごした。歩いているあいだはずっと、暑さなんてものともせずに手を繋いでいた。 

その帰りのバスである。
知人は坂道で揺られながらこう言った。
「いおさんが一緒に暮らしてくれたらな。今日からでも」
嬉しいながらも驚いて、
「こんなほとんど見ず知らずの人間を住まわせてよいのですか」
と尋ねる私に、知人は優しく笑って、
「いおさんならいいと思うんだ。俺が帰ってきた時に『おかえり』って言ってくれたらそれだけで凄く嬉しい」
と言った。

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結局暮らし始めたのはその数週間後、知人が私のために食パンの形をした可愛いソファ(しかもベッドにもなる!)を家に導入してくれたのがきっかけだった。
それまでに何度も泊まりに行っては料理を作ってもらったり、一緒にアニメを観たりしていたけれど、一緒に暮らせることはその格段嬉しいことであった。

秋の始まり、朝起きたら好きな人がいて、仕事に行ってしまうあいだは私も大学へ行って、帰ったら料理を作りながら知人を待つ。待っていたら知人が帰ってくる。ちゃんと定刻通りに。
こんなシンプルなことだけれど、本当に本当に毎日が幸せで、絵本に出てくる物語のようだった。
寒い冬の日、バイトに行くときだって、帰ったら知人が待っていてくれることがわかるから頑張れた。
休日は街に出かけてカフェやお買い物を楽しんで、夜になったら美味しいごはんを食べて、凍てつくような寒空の下、イルミネーションを眺めて歩いた。
家にいるときはずっと寂しくなくて、永遠にこの部屋の中に閉じ込められるのも悪くないな、などとも思った。

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そんな愛おしい冬を、私はずっと忘れられない。冬が来る度、凍てつくような空気の匂いとともに知人を思い出す。
あのひとは今元気だろうか。まだ私の作った料理の味を覚えているだろうか。私のことを、綺麗な思い出にしてくれているだろうか。

ねえ知人。今年の冬はどんな冬にしたいかい?
私はね、今年こそあなたがいなくても大丈夫な冬にしたいわ。