私が心を動かされた異性の恋愛対象は、同性でした。

ある年齢を超えた辺りから、私は年下の異性に恋心を抱くことがとても多くなった。
仕事が出来なければ出来ないで可愛く見え、出来たら出来たでカッコ良く見える年下男の魅力は私の母性を刺激した。
世の中の多くの母親は成人した自分の息子をこんな風に思うのかもしれない、そう思った。

守ってもらいたいだなんて図々しいことは思わない。見返りも何も要らない。ただ、この人が生きる世界にあるこの人を苦しめる全てのものから守ってあげたい。馬鹿みたいにそう想わせてくるのが、私にとっての年下男だった。

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職場に彼がいるだけで気分は上がったし、仕事ヘのやる気も上がった。たとえ自分が恋愛対象として見られていないのだろうと諦めてはいても、少しでも良く見られたくて、ヘアサロンやネイルサロンで身なりを定期的に整え、綺麗な服に身を包み、自己満足過ぎる努力をした。
その時、人には年齢なんてあってないようなもんなんだな、と感じた。
恐らく私は40歳になっても60歳になっても80歳になっても、見た目だけが老いて、恋をした時の頭の思考の根本は変わらないのだろうと感じた。
他人にはバレないように必死に押し隠したが、私の頭の中は初恋をした時のようなはしゃぎようだった。
勿論、彼には彼女がいるのかもしれないし、好きな人がいるのかもしれない。けれど、職場に彼という存在がいるだけで私の毎日は確実に華やかなものになっていた。

会えば必ず彼から声をかけてくれたし、その内容は必要のない事柄が多いように感じ、一人で嬉しくなるのだった。
しかし彼を観察すると、彼は私に対するのと同じような態度で容姿や年齢を問わず色々な職場の女性に話しかけていた。
罪深い男だと思った。
それは彼の中にある"普通"に過ぎないのかもしれないが、"コミュニケーションモンスター"だとしても、無意味に異性に話しかける事で生まれるであろうトラブルを想像できないのであろうか、と少し残念にすら思った。

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そんな時だった。
「私、好きなんですよね〜」
後輩は私に言う。
積極的な彼女は彼にどんどんアタックをしていった。
そして、気がつけば私は彼女主催の彼を含む飲み会に参加をする事になっていた。
その頃には彼女を応援したい気持ちになっていた為、私は彼女に指示されるがままに指定された席に座り、彼女と彼が上手くいくように祈った。だが、その日の彼は1次会で帰ってしまった。

その後、彼と彼女と席の近かった女性社員から話を聞くと、彼はお酒を1滴も飲まなかったという。
「私が思うに多分、"そっち系"ですよ。あの若さの子が自分に明らかに好意を持ってる見た目も普通の女の子に誘われて、彼女もいないのに1軒目で帰らないでしょ(笑)」
「彼女いるの隠してただけじゃなくて?」
「休みの取り方とか退勤の様子からして彼女はいないと思いますよ。彼の女性アイドル並の動かない前髪とか所作とか諸々を見ると、恋愛対象が男性って線が濃いと思いますね、私は」

そう言われると、分からなかった彼の過去の行動や言動にも納得が出来る点がいくつも見つかった。
確かに彼は、可愛いが過ぎていた。でも私は人間として彼が好きである事に変わりはなかった。

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その後も彼の元には何人かの女性が言い寄ることがあったが、彼はどの人を選ぶこともなかった。そして、私はある日、彼が男性と手を繋いでいるところを目撃した。
その時、人に性別なんてものが無かったら良かったのにな、と思った。
彼の幸せを願いたい私の頭と、彼の彼だったらと妬む私の心は矛盾で忙しかった。
私も彼と手を繋いで歩きたかった。
外の寒さは私の体も心も冷やしてくれた。