100万円があったら?そう聞かれたなら、間違いなく「ホストに使います」と躊躇なく答えた自分が、数年前に存在していた。
きっかけは、失恋をした女友達が悪酔いをし、「イケメンを見て癒されたい」と言い出した事からだった。

ギャルマインドを持ち、頭の回転も速い彼女は、次々とキャッチのお兄さんを交わし、好条件の店を見つけると値切り交渉を始めた。
「高過ぎ〜♡」「もっとイケメンいないわけ?♡」「この値段なら無理、行かない♡」
何と頼もしく男らしい女だろうかと私は益々、彼女に惚れた。

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眠らない街、新宿歌舞伎町。
酒の値段は原価の10倍。
眩しいネオンと店の数だけいる、300人程のナンバーワンホスト。
TOHOシネマから顔を覗かせるゴジラは、私たちを応援しているように見えた。
優秀な女友達によって、私の人生初のホストクラブ体験は始まった。

扉が開くと、良い香りとイケメンが私たちを迎え入れてくれた。豪華な装飾で溢れる店内に煌びやかな照明と華やかなBGM。
身分証明書を提示し終えると席に案内され、そこからは回転寿司の如く、私の元にイケメンが流れ続けた。
興味本位から過去にホストのYouTubeや"主観ホスト"といった動画を見漁っていた事はあったが、実際に自分の前に現れる彼らは中々の迫力であった。私は彼らの肌荒れや厚化粧をチェックしてしまったし、恐らくこの街以外で生活する事を考えてはいないのだろうと思えるタイプの整形顔ホストが現れると、何だか嬉しくなってしまった。

「横座っていい?」
「隣行っていい?」
「もっと近づいちゃダメ?」
「近く行きたいんだけど」
同じ内容であっても色んな言い方があるんだな、と冷静に分析しつつ、色んなキャラクターのホストと会話をする事で自分の自己肯定感が確実に上がっていくのも感じた。

ふと、女友達を見ると、初回500円を良い事にお酒好きの彼女は、イケメンを目の前にアルコールが止まらない様子だった。そしてホストたちが消えたタイミングで、困った顔をしながら「どうしよう、あたし、ホス狂の素質あるかも」と一言。
私は返す。
「世の中に素質ない女の子いないと思うよ」

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手元にはトランプ程にホストの名刺がたまった。
私たちは1番気に入ったホストを送り指名にし、1軒目を去った。女友達はエレベーターが閉まると侍のような顔で「2軒目行こ」と呟いた。
歌舞伎町にある店は全て指定暴力団がバックに付いている、といった類の裏社会や都市伝説に関する話をかなり聞いていたが、この時の私にそんな警戒心や危機管理能力は全くなくなっていた。

2軒目の店でも1軒目と同様に、私の隣に座ってくれたホストは全員LINEを聞いてきた。これは、次に繋がるためのカモにされた合図なのだと、どこか悲しくなりながら、私は良い匂いのするこの場所を離れたくなくなっていた。
家に帰り、携帯を開くとLINEを交換したホスト全員から律儀にもメッセージが届いていた。これも彼らの仕事か。

だが、2軒目で送り指名に選んだホストからのLINEに胸は高鳴ってしまった。
そこから、彼とのメッセージや電話のやり取りが始まり、映画を見てご飯を食べセックスをした。そして結果、私はホストクラブに通うようになるのだった。

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どうせ営業なのだから、と頭では分かっていても、夜の闇に広がる楽園に足を伸ばさずにはいられなかった。私にとってそこは大人の夢の国。
歪んだ形でしか愛の存在しない歌舞伎町で、金でしか女を見ない男に私は溺れた。たとえ、お金でしか成立しない時間や関係性だと分かっていても、お金で夢が見れるなら良いと思っていたし、当時の私にはこんな方法でしか異性からの楽しみを得る事が出来なかった。
たとえ色恋営業という疑似恋愛であっても私は楽しかった。売上のための色カノやセフレ的な趣味カノという枠であっても。
だが、その夢は長くは続かず、私は夢から覚めてしまった。

しかし、最近親しくなった男がホスト風であった事から、この出来事を再び思い出してしまった。ホストクラブの中には昼間は会社員として働くホストや大学生ホストも多く居る事から、彼に思わずホスト経験があるのか聞いてしまった。彼は答える。
「ないよ(笑)。ホストなんてやる奴、頭悪いでしょ。絶対お金も貯められない人ばっかでしょ(笑)」

私は正直、こんな職業差別的発言をする貴方の方がよっぽど頭が弱く見えるよ、と言いたかったが、黙って微笑んだ。
私はホス狂を卒業しても、ホストを悪く言う男を好きにはなれないようだ。