社会人1年目。わたしは見事に挫折したひとりだった。
自分は仕事ができないという事実、そしてお局からのパワハラのターゲットになり攻撃される毎日。満員電車に揺られながら会社に行き、過ぎてゆく日々。会社のトイレでも、電車でも、家でも止まってくれない涙。休みの日はご飯も喉を通らずベッドから動けず、眠りも浅いので仕事の夢を見て、地獄だった。
気分転換に予定を入れても心から楽しめず、友達からも心配をされる挙句、美容院や病院も予約を当日になりキャンセルしてしまうくらいに億劫になってしまい、当たり前の生活ができなくなっていたのだった。

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東京の街のネオンがただ遠い存在で、賑やかな飲み屋、人たちから逃げるように通り過ごした。想像していた刺激的で華やかな生活とかけ離れていて、精神状態はズタボロだった。今まで築きあげた自分の自信がだんだんとそぎ落とされていき、自分の大切にしていた繊細さや人間臭さ、温かみが薄れていくことが辛くて、いとも簡単にメンタルを壊した。ボロボロに弱った自分自身を見て、人間ってこんな脆いんだなぁなんて感じた。

転落した私はメンタルクリニックに通い、抑うつ状態と診断された。それでも、会社を辞められない気持ちが強く、こっそり服薬生活を始めた。
ストレスは減らないものの何とか平常を保って過ごせるようになった私は、反動として仕事以外の生活を破壊してしまった。アルコール、タバコがやめられない。空虚な気持ちを埋められず、その場しのぎの生活をする毎日。

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そして待ち受けていたのが悪魔の異性関係だった。
偶然に出会った彼の感性の豊かさに惹かれ、一緒にいて落ち着いて、すぐに打ち解けた。久しぶりに自分も人としての温かみが戻った感じがして、嬉しくて、一緒にいる時間を増やして生活をともにした。

でも、ひとつ気になったのは彼の精神的な弱さだった。
彼は私と同様に私生活は崩壊し、普通の生活はできていなかった。日中に寝て、夜に行動を始める彼に、夜に1人でどこかへ行っている彼になんの不信感も抱かなかった私も、私でおかしかったのだろう。引き合ったのはきっと同じ性質や波長を持ちあわせていたからだったと今更気づく。
彼は精神疾患持ちで、いわゆるパラノイアといい、妄想が止まらなくなってしまうがゆえ苦しんでいた。私にできることは彼の話を聞いて理解をしようと努めることで、なるべく彼の苦しみを共感してあげたかったのだが、なんせその感情をそのまま受け入れてしまうことで自分自身もどんどんと苦しくなる日々が続いた。

このままじゃまずい、流されてしまうと思った私は彼と距離を置いた。そして、彼は半ばストーカーのように私の家の近くまで来るようになったこともあったが、何とか切れた縁だった。

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今思うと、なんて最悪な時期だったのだろう、ホラーだなと笑ってしまう。社会人になる前まではいたって普通の幸せな人間だったのに。
どこにでもいるありふれた毎日、笑顔が尽きない日々、人生は喜劇と心から信じる人。どこから間違えたのかは分からない、自分自身の弱さからなのか、元からそのような性質を持っていたのか、慣れない環境や労働や他者が私をダメにしてしまったのか。

でも、悪いことだけではない。すべてに絶望した私は、今まで生きてきた人生の中であの時が一番「生」を感じていた。人間不信にはなったけれど、きっと自分を成長させるには大切な時間だったのだと思いたい。自分を守らなければならないとこれまで強く感じたことも、人に対する警戒心も、この経験がなければ芽生えなかったのだろう。鋼のような心が出来あがって、前よりもたしかに強くなった。

しかし、経験しなくても良かったなとも思う。何も知らず、過ごしていたら。傷がなく、きれいなままでいれたら、私は弱くとも無知で美しいままでいれたのじゃないかと感じる。

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今、私のような人がきっとどこかにいるのではないかと思って、自分の実体験を書いています。
皆さん、どうか私を反面教師にしてください。人は脆くて、壊れやすいから、自分を大切に労わらなければいけないのだと。もうダメだと思ったら一目散に逃げても大丈夫だということを、安心できる環境を、居場所に戻ることも大切なのだと。

どんなにつらい日々でも、いつかはご飯を満腹になるまで食べられる時が、ゆっくりお風呂に浸かる贅沢を味わう時が、平穏な気持ちで一日を終え眠れる時が必ず来ます。
だから、暗闇を恐れないで、耐え忍びながらもどうか生き続けてほしいなと思います。