百万円というのは莫大な金だ。
私はそのお金を
『奨学金』
と呼んでいる。そしてそれは、齢19にして初めて背負った『借金』だった。

そうなる事も知らない、18歳の女子高生。
私は5月の暑い日差しが照らす教室の窓際で、ゲーム制作に携わる自分を想像していた。

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私はゲーム関係の仕事に就くため、高校ではプログラミングなどの情報技術を学んだ。
工業高校だったため、毎週のように実習をし、レポートを作成する日々。
どの学科よりも多忙を極めていたと思う。

基礎の基礎を把握するのに精一杯な私は、クラスメイトから遅れをとっていた。
実習も、レポートの質も、検定も不出来。
そんな自分に向き合ってくれる人たちに、いつも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
とても、悔しかった。
そんな時、私は面白い情報を手にいれた。

『ファイナルファンタジー』という作品をご存知だろうか。
独特な世界観と、シリーズが展開される度に進化を遂げ、プレイヤーを飽きさせない作品だ。
その中に『飛空艇』という空飛ぶ船が存在するのだが、その船が画面上を動く理由に、私は興奮した。
なんと、プログラムの『バグ』を使って表現をしていたというのだ。

衝撃が走った。
プログラムにおいてバグが発生した場合、望んだ通りの操作をしない事が多い。
万が一成功したとしても、他の箇所に影響をもたらすはずなのだ。しかし、成功してしまった。

私は思った。
そんな奇想天外な発想、誰が思いつくだろう。
そして私は憧れた。
人々を驚かせる革新的なゲームを作りたいと。
たとえ精一杯な自分が怖くても、ゲームに対する気持ちは揺らがない。

私はその日から、今までを超える努力を重ねた。
その後行われた三者面談では、自分の思いを熱く語った。
そして最後は受験に備えるだけだった。

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そんなある日の事。
「希望者は速やかにね」
ふくよかな担任が奨学金の申込要項の紙を黒板に貼った。
その時ふと、私は思った。
「専門学校の費用は、また親が払ってくれるのか」

義務教育を終え、当たり前のように高校へ行き、当たり前のように専門学校へ行く。
少しの不安を抱えながら、私は寝転ぶ父に問う。
「専門学校さ、行くとこ決めたんだけど、学費が高いんだ……大丈夫かな」
私は思わず低姿勢になる。
しかし、父からは意外な言葉が飛んできた。
「どこにでも行けばいい」
確かにそう言ったのだ。
その瞬間、私は高揚し、笑みがこぼれた。

だがそれは次の一言で崩れる。
「どうせ、お前が払うんだからさ」
父はそう、言ったのだ。

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相談しなかった私も悪い。
しかし、唐突にのしかかるのは莫大な借金だった。
怖い。でも、行きたい。
前と後ろの気持ちが引っ張り合う。
しかし、やるしかなかった。
私は学校の費用について調べ、早急に奨学金の申し込みを行った。
そうして突然、私はお金を手に入れた。

借金というものは怖い。
2桁はおろか、3桁のお金を持った事などなかったからだ。
『借金』という言葉が私を襲う。
無事に学校へ行くことができた今でも、
私の心には、恐怖が住み着いている。

『百万円という膨大な金』
私はまだ、そのお金を使うことが、怖い。