コツコツ貯め続けたお金は900万円を超えた。
自分で家を建てるために、慎ましい生活を送り、貯め続けてきたお金だ。

900万円貯めるのは決して楽ではなかった。10年前に始めたバイトは、塾講師にもかかわらず、当時の最低賃金の737円。働いてもなかなかお金は貯まらなかった。大学に通いながらのバイトだったこともあり、通帳を見てもわずかなお金しか増えていかない。お金を貯める大変さを痛感した。

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就職してからは、お金を稼いでも年金や所得税、住民税等のたくさんの税金でお金が減っていくことを知った。月に20万円を超える給料であったとしても、手取りになると16万円程度だった。仕事で必要な道具を揃えたり、体を壊して病院に行ったりすれば、お金はじわじわと減り、なかなか貯まらない。服や日用品を買うことさえ躊躇ってしまうこともあった。

ただ生きているだけで、ただ住んでいるだけで、お金が吸い取られていく。年金だって、自分が歳をとった時に返ってくる保証はない。早く死んでしまえば、今まで年金を払い続けただけで、損をすることになるだろう。ただお金を貯めたいだけなのに、なかなか上手くいかなかった。

でも、私には家を建てるという目標がある。贅沢はできない。なるべく節約して、お金を使わないようにして、先のことを見据えてなければならないと、自分に言い聞かせてきた。
周りの友人が、旅行に行ったり美味しい食べ物を食べに行ったりする話を聞くと羨ましかった。私も気兼ねなくお金を使いたい。思いっきり遊んで、おいしいものを食べて、お金のことを気にすることなく生活したいと思うこともあった。

けれど、私はそういう欲に負けなかった。今の節約が、今後の贅沢に繋がるかもしれないと、自分を奮い立たせた。
節約生活をしているからこそ、1万円、1000円、100円だって貴重に感じられた。お金を大切に使おうと思えた。

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そんなことを思う日々の中、私の結婚が決まった。お金がかかるので、親族のみの式で検討し始めたが、見積もりを出してもらうと、なんと280万円。目玉が飛び出るような金額だった。
どうにかして節約したい気もするが、結婚は親孝行の1つでもあり、親戚も楽しみにしているため、しょぼい式にするわけにもいかない。

家を建てるための資金の何割かがこの結婚式で消える。彼は結婚式に乗る気ではなく、支払う気はないからと告げられていて、もう自分で何とかするしかなかった。

自分のお金で結婚式をあげ、自分で家を建てて、自分で何とかしないとと思った時、心が折れそうになった。掛け持ちで働き、節約し、自分のことは後回しの生活。今の節約が今後の贅沢につながると感じていたのに、終わりの見えない節約と、働かなければならない日々を想像した時、心は泣いていた。

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落ち込んでいると、祖母が私の手に分厚い祝儀袋を渡してくれた。
「これで好きなドレス着て、結婚式あげるといいよ」
そう手渡された祝儀袋の中身は、1万円が帯で巻かれた札束だった。

初めて見た。1万円は見ることはあっても、帯で巻かれているものは初めてだった。見た瞬間それが100万円の束だとわかった。こんな高額な祝儀をもらってもいいのかわからなかったが、祖母の優しさだと思い、ありがとうと、一礼して受け取った。

しばらくは100万円を手にソワソワした。どうしよう、どこに置けばいいのだろうと、家の中をウロウロと歩き回った。そっとタンスの引き出しの中にしまったが、動揺した気持ちは収まらず、祝儀を受け取った翌日の仕事は、つけていこうと思って準備しておいたイヤリングをつけ忘れて行ったほどだった。

100万円はものすごく大金だ。愛はお金で替えられない。でも、100万円の束を見た時に、祖母の愛を感じた。

おばあちゃん、私、おばあちゃんがくれたお金でウェディングドレスとカラードレス、好きなの着るよ。おばあちゃんのおかげだよ。
だから元気に結婚式見にきてね。