「今日はね、外でアイスクリームを作ったんだよ」
「そしてね、山からそりで滑って遊んだの」
「雪だるまも作ったんだけどね、上手く丸まらなかったの」
「雪玉当てられてね、冷たかったし痛かった……」
「冬の外って楽しい、寒いけど」
「外遊びで服濡れちゃったから荷物いっぱい」
「ママ、怒るかな、怒らないかな?どっちだと思う?」

「そうなんだ」
「美味しかった?」
「楽しそうだね」
「痛いのは嫌だね」
「寒いの好きじゃないなあ」
「荷物持つよ、貸して」
「怒らないと思うよ?多分」
「とりあえず鼻拭こっか、ほら、プーンってしてごらん」

適当に相槌を入れながら、私は早く帰りたくて仕方なかった。
だって、冬の帰路は寒いんだもの、早く家で温まりたいに決まっているじゃないか。
そんなことはつゆ知らず、彼女はいつもマイペースに歩いていた。

◎          ◎

当時、私が通っていた中学校のそばには幼稚園があり、妹はその幼稚園に通っていた。
授業終わりに時間が合うときは、よく私が迎えに行っていたのだが、冬の帰り道はこの手の会話が帰宅中ずーっと続いていた記憶がある。
それはそれはうんざりするほどに……。

三姉妹の長女である私と三女の妹には8歳の年齢差がある。
年齢差があると喧嘩することもなかなかないし、当時から割と安定した関係だったと思う。
むしろ「末っ子可愛い、こいつ何でも許されそうだな……」と思っていた。

冬の彼女はとても自由奔放に帰り道を堪能していた。
私と手を繋いだり、手を振りほどいて走りだしたり、氷を蹴りながら歩いてみたり、綺麗にできた雪玉を壊さないように優しく持ち運んでみたり、雪山という雪山全てに手を突っ込んでみたり、つららを持ってずんずん歩いたり、滑って転んだり。

◎          ◎

まっすぐ自宅に向かっているはずなのに、冬の帰り道は面白要素が満載なようで、いつも時間が掛かったのを覚えている。
それでも早くしろと急かすことが出来なかったのは、年齢差のある末っ子を甘やかしていたからに違いない。

そんな彼女も成長し、一緒にライブを見に行ったり、お酒を飲めるまでに成長した。
学生生活やバイトの話、卒論や就職、将来の話をするようになった。
「就活上手くいっていない、どうしよう、もう就活したくない」と嘆いていたものの、昔からのラジオDJになるという夢を叶えたらしい(よく分かっていないのだが、ローカルラジオのパーソナリティを務めるらしい)。

彼女と雪道を歩くたび、彼女が冬を迎えるたび、「大きくなったなあ」「あんなに小さかったのになあ」「それほどに私も歳をとったのだな」と感じ、少々ノスタルジックな気持ちに浸るのである。

◎          ◎

そんな彼女は明らかに見た目も中身も成長しているはずなのだが、私の中では、彼女は幼いままで、一緒に帰っていた頃と何ら変わらない気がするのだ。
おそらく、その頃が一番そばにいた時間が長かったからなのだろうけど。
記憶として一番鮮明に残っているのがその頃だからなのだろうけど。

「なんかさ、成長してるはずなのに、私の中で幼稚園の頃から成長止まってるんだけど」
「成長した今の姿見ても、大きくなったねえ‼って親戚のおばちゃんみたいな気持ちになるんだけど」

そう本人に伝えたところ、
「は!?きっしょ!!」
「見ての通り立派に成長してるだろ!!」
「めちゃくちゃ綺麗に成長してるだろ!!」
と言われる始末である(綺麗に成長したかについては姉ちゃんからはノーコメントとさせていただきたい)。

「子供なんていつまでたっても子供なのよ」と会社の先輩に言われたことがあるが、その感覚に近いのかもしれない。
年齢差があったから、そういった感覚になりやすいのかもしれない。

「見てあれ!凄くない!?でっかいつらら!!」
うん、やっぱりあなたはあの頃と変わらないよ。