私は現在、事務のバイトをしているごく普通の大学2年生だ。
バイトは2年前の秋から始めたので、大体1年と3か月ほど勤務していることになる。つまり、今まさに客への対応や、働いている施設の設営などの、いわゆる社会経験を積んでいる最中なのだ。
最初は不慣れだったことも、時間とともに当たり前に出来るようになった。けれどもいつまで経っても慣れないことがある。
それはずばり、社員やパートのおばさんとの連絡である。

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バイトの業務内容には当然、働いている人同士の連絡がどうとは書かれていない。でも私にとって、目上の人にLINEを送ることも立派な社会経験の一つなのだ。
私は勤務中に、自分では対処できない事態が起こると、すぐに社員に連絡し、指示を仰いでいる。そもそも社員側が、何かあったらすぐに連絡するようにと言っているため、私の行動は間違っていないはずだ。

でも何故だろう。連絡する時にすごく申し訳ない気持ちになってしまう。
連絡するのにこの文は適切だろうか、相手が違うニュアンスで受け取って嫌な気持ちになったりしないだろうか、と考えすぎてしまう。

きっとこれは私の性格のせいに違いない。元々私は目上の人に、おかしいくらいにぺこぺこしてしまいがちだ。何なら今もそうだ。何故なのか、なんとなくじゃないと分からないが、きっと「目を付けられたくない」「嫌われたくない」「この子は良い子だと思われたい」という考えが心のどこかにあるのかも。
別に媚びようとか、逆に年下には威圧的だとか、そういうのはない、はずだ。けれど目上の人を前にすると、失礼なことがあってはダメだ!と人一倍力が入ってしまうことが結構ある。

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中学1年生の春、私は部活に入り、初めてできた先輩という存在にうれしさと緊張を覚えた。当時の先輩とのメールを見ると、私が送った文にはほぼ全部に「失礼だったらすみません!」の言葉が。おかしい。12歳の子供が13歳の子供に送った文である。
内容も夏の練習は何をするのか、合宿場所はどこか、みたいなどこが失礼かも分からない質問と、先輩の優しい返信が繰り返されているだけ。
今でも見返すと、あまりのおかしさにイライラと恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。おまえは何に謝っているのかと。

だが、今でも謝る癖がどうしても抜けないのだ。バイトの研修の時も、確か連絡に対し
て「そんな毎回謝らなくていいんだよ」と社員から何回か言われた記憶があったような。
直接会って喋る分には、相手の思っていることとか気持ちが分かり易いかもしれないけど、文だけのやり取りとなると、自分の何気ない質問や言葉遣いが、相手を不快にさせてし
まうんじゃ……と、色々考えてしまう。それと、私は「それ研修の時に教えたはずだよ」だとか「前も同じことしてたよ」と言われるのが怖い。

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ここまで見ると、私が社員に対してかなり萎縮しているように見えるけど、社員は普通に優しいし、連絡で「それ前やったじゃん」などとは絶対言ってこない。ただ、私がそう思われるだけでも嫌なだけ。
また、知りたいことが、既に聞いていた内容だったら申し訳ないという気持ちもあるのだ。けれども、いくら思い出そうとしても出てこず、もう連絡するしか方法が無い場合だけ、萎縮しながら時間をかけて、教えてくださいの文を作っている。
だから、勤務中に想定外の事態に遭遇した時、状況説明も無駄に細かく、「~が分からないので教えてください、もし既に聞いている内容であれば何度も申し訳ありません。長文失礼しました。」みたいな、読むだけでも疲れてしまうような文章を送ってしまうのだ。
そしてそれが結局、社員が私に教えていなかったこととか、社員の間違いだった時、私の変にぺこぺこしすぎた文が、かえって嫌みのようにあっちに捉えられてしまったのではないか、とそこでまた色々考えてしまう。

私という女はとても面倒くさい女なのだ。
自分でもよく分かっているのだが、相手を嫌な気持ちにさせないことを優先するのがどうしても癖になってしまっている。

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パートのおばさんも例外ではない。
最近でいうと、おばさんの引継ぎで、後半の締め作業を含めた時間は自分が勤務する日があったのだが、会計数とお金の計算が合わなくなってしまった時があった。
結局おばさんのミスだったのだが、自身でレジの点検を細かくすれば連絡しなくても修正出来たのに、履歴から自分が担当した時ではない時間に差異が起こっていることを確認した後、ちゃんと調べずに連絡してしまった。
そのため、お互いが「迷惑をかけてごめんなさい」「こちらもろくに調べずに連絡してしまい申し訳ないです」「いや本当にすみません」「こっちもすみません」と永遠に謝り合うおかしいやり取りになってしまった。

私は特にミスをしていないし、何ならレジを締めるのに迷惑が掛かっている立場であることは間違いない。だけど、自分の文章のせいであっちが「点検すれば自分で修正できるじゃん」などと気分を害してしまったらどうしようという考えが祟って、結局「心当たりはありませんでしょうか。まだ点検中なので自分のミスの可能性もありますが、念のため...」と馬鹿みたいにぺこぺこした文を送ってしまった。
ちなみにそのおばさんもとても優しく、自分で直せとは絶対思わないような人だ。

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ここまで書いた通り、私は目上の人とのLINE一つでとても緊張してしまう。文章を書くことは難しいと、連絡するたびにしみじみ思う。
私のこの気にしいな性格はこれから治るのだろうか。バイト始めと、最近のLINEを振り返って比べてみても、ずっと私はウザいままである。
そして、私はこれから大学の調査活動やインターンシップなどで、色々な人と連絡を取り合うだろう。
たくさん経験を積んで、社会に出る前に少しでもぺこぺこを直せたら良いが……。