数年前の私に100万円渡したら、適当に銀行にぶち込んで、気づいたら無くなっていたと思う。好きな洋服、好きな人とのご飯、好きな国に何も考えず旅行して、好きに使っていたと思う。そして元々あった自分の貯金との境界線が分からなくなって「あれ?いくらを何に使ったんだっけ?」って言う。きっとそうだ。

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でも今の私は違う。偉そうに言うことではないけれど、実家を出て、積み立てNISAをして、投資を知って、高い買い物や旅行を数回して、100万円ってどんなお金かを深く実感している。
だから今の私は適当に使わずに投資に回す。一瞬「つまんない大人になっちゃったなあ」とも感じるけれど、本当にお金が必要な時までに100万円を“育て”たい。
そう思うようになったのは本当に最近だ。

年末に90万円のクレジットカード請求が来た。転職に伴うお世話になった人たちへのギフトとか、有給消化期間の海外旅行の支払いなど、積もり積もってこの金額。過去最大の請求額だ。
90万円引き落とされたら詰むってほどの貯金額でもないのだけれど、それでも引き落としの前日には緊張感があった。そのくらい、会社員の私にとっては大金だ。
こんな一瞬で無くなってしまうクセに、貯めるのはすごく大変だと最近知った。実家暮らしの時はそんなに意識せずとも貯まっていたけれど、実家を出てからは全然貯まらなくてビックリしている。

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引き落としの数日後、実家に帰ったら母から改めて呼び出された。何かと思っていたら、100万円くれると言うのだ。母は再婚しているのだけど、再婚前の夫で私の実父が私のために送り続けてくれていたお金らしい。
「嬉しいけど、結婚するわけでもないのになんで今……?」と聞くと、「あなたは投資をやったりしているんだから増やせるでしょう。銀行に置いておいても意味無いし。ちゃんと“意味のあること”に使ってね」と言う。

その100万円について、私はすごく考えた。
私のために貯めていてくれたお金なら、私が使い方を決めても良くない?意味のあることって何?実の父親なのに100万円しかくれないの?いや、でも田舎に住んで自分の新たな家族生活もあって100万貯めるのって大変だよなあ……。増やすって言っても、90万円の支払いを終えた後なんだから海外旅行費ってことにして、もとの貯金額に戻す方が良くない??
あれこれ悶々と考える。

100万円ってすごく絶妙な金額だ。使うのは簡単なのに、貯めるのは本当に大変。喉から手が出るほど欲しいのに、100万円では人生どうにも出来ない。
人生どうにも出来ない金額を、どうやって意味のあることにしたらいいのだろう。今の私は“意味のある使い方”がさっぱり浮かばない。

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こうして悶々とじっくりと考えた先で、母の言う“投資”という選択肢に戻ってきた。
今の私はこの100万円を意味のある使い方にする事はできない。けれどこの100万円を数年かけて育て、もう少しでも人生をどうにか出来る金額になっていた時こそ意味のある使い方ができると思ったから。もしくは人生をどうにかしたい時、この100万円が意味のあるものになってくれるかもしれないから。それを実現させるには投資しかない。
このゴールにたどり着いて私はすぐに証券口座にお金を入れた。

お金の使い方ってすごく難しいと未だに思う。成熟しているはずの大人でもギャンブルしたり借金の返済が出来なくなったり、お金でどうしようもなくなっている人はたくさん見る。気をつけなきゃいけないと思う反面、お金を貯めているだけでは何にもならないとわかっているし、我慢ばかりでつまらない人生にするのも嫌だ。

欲しいものがある時はじっくり吟味する。経験にはお金を払う。今だから行ける遠くの国には思い切って行く。自分を豊かにするためにこのルールは守りながら、資産を作り上げ、育てていくことは忘れたくない。
投資という選択肢をようやく理解し始めている時に100万円を渡してくれた母は、やはり私を分かっている人だと思った。