彼に出会ったのは、わたしが23歳の頃。
先輩に連れられて行った飲み会の席で出会い、恋をした。
取引先の社長である、7歳上の彼は、まだまだ人生経験の少ないわたしにとって、とても大人に見えた。

「もう帰るんですか?」と玄関先で言う彼。大人はこんな風に誘うのか…

初めは、わたしには住む世界の違う、遠い存在の人。そんな風にしか思っていなかった。
何度か飲み会で会い、他愛もない会話で終わる。そんな日々が続いた。
そんなある日、先輩に代わって、わたしが彼を家まで車で送ることになった。

あまり人見知りする方ではなかったが、関係が浅い中、さすがに2人きりで車に乗るのは、とても緊張した。
先輩と一緒に乗っていた時には、後部座席に座っていた彼が、2人になった途端、助手席に乗ってきた。
大人の男性にとって、わたしは子供で、きっと何の意味もなく行動しているだけなのだと自分に言い聞かせ、平常心を保っていた。
お酒を飲んでいた彼を、玄関先まで送り届け、帰ろうとした時、ふと一言「もう帰るんですか?」と彼の口から放たれた言葉。
大人の男性は、こんな風に誘うのか、と初めての経験に動揺しつつ、そのまま上がってしまった。

それから彼は、わたしに起業するまでの話や、家族のこと、たくさんのことを話してくれた。
そして、どうしてわたしを家に入れたのか、どうして可愛い先輩ではなく、わたしなのか聞いたりもした。
曖昧にしか返してくれなかった彼。
今となっては、謎に包まれたままだ。

興味がないふりをするわたし、曖昧な関係が続いた後、彼の対応が突然冷たくなった

その頃のわたしは自分に自信がなくて、飲みに行こうと誘ってくれる彼に対しても、天邪鬼な対応ばかりしていた。
たくさん愛情表現してくれていたのに、大人な彼がわたしを好きなわけがないと決めつけ、わたし自身は興味がないふりをしてしまっていた。

そんな曖昧な関係が数ヶ月続いた頃、突然、彼の対応が冷たくなった。
返信が来なくなったり、素っ気なくなったり、ご飯に行く誘いにも乗ってくれなくなった。
急に不安になり、今まで冷めた対応をしてしまっていた自分が嘘のように自分から連絡をした。
けどその頃には彼の気持ちは、冷めていた。

わたしが県外へ行くことになり、最後に先輩を含めて4人で送別会をしてもらうことになった。
その飲み会で彼の口から解き放たれた言葉。
それは「僕は好きになった時に相手が振り向いてくれなかったら、それで終わり。そのあと、どんなに相手から来られても振り向かない」と。
名前こそ挙げなかったものの、きっとそれは、わたしに向けて言った言葉。
大人な彼らしい発言。

でも、今思えば、県外へ行くわたしへ諦めがつくように言ってくれた、彼の優しさだったのかもしれない。

もし、今と同じ感覚で彼と向き合えたなら、未来は変わったのだろうか

今、わたし自身が当時の彼と同じくらいの年齢になり、分かったことがたくさんある。
もし、あの時、今と同じ感覚で彼と向き合うことが出来たなら、未来は変わっていたのだろうか。
もし今、あの頃より少しだけ大人になったわたしが彼に会えたなら、伝えたい。

子供のわたしに、「たくさんの大人というものを教えてくれてありがとう」と。

わたしが初めて本気で恋をした7歳上の彼。
きっと、わたしの人生で彼の存在は一生特別で、一生大切な思い出。
想いが通じ合うことはなかったけれど、生涯、自信を持って言える。
「彼を好きになって良かった」
そしていつか、彼を超える素敵な人と出会って恋をする、そう思った27歳の冬。