夏にTinderでマッチした。お互いに平日休みで都合が良かった。9月に初めて会って、デートして、そのままホテルに行った。わたしは実家暮らしだから、夜は遅くなる前に解散した。

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お互いに顔がタイプだった。からだの相性が抜群に良くて、性癖までピッタリだった。さらには好きなアニメまで同じだった。Tinderで出会った相手に求めることも同じで、一緒にいると死ぬほど楽しかった。彼と会うために、仕事を頑張れるくらいには。

一緒に推しの誕生日を祝って、ホテルへ。アニメのイベントに行って、ホテルへ。わたしの生理がかぶると、カラオケでアニソンを歌いまくって、そのまま解散した。
アニメの好みが同じだから、彼が勧めてくれたアニメは全部観たし、見事に全部ハマった。もちろん、逆も然り。

教えてくれてたから、知ってた。付き合って6年になる彼女と、同棲してること。2人が初めてデートした“7月1日”に、入籍すること。わたしたちは、「もちろんホテルなしでもオタ友としてこれからも会えるけど、出会いを聞かれると答えられないから」と、入籍したら縁を切ろうと話していた。

本当に本当に大好きだったけど、そういう“大好き”ではなかった。彼に恋愛感情を抱いたことがなかった。からだの相性が良くて、趣味が合う、一緒にいて楽しい人。いわゆる、良い友達。ただそれだけ。

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年が明けた、1月1日。一緒に推してる声優さんの結婚報道が出た。結婚したね、のLINEに、既読はまだつかない。あぁそうか、彼女にバレたのか。

こんなに早く、そしてこんなにあっけなく終わるとは思わなかったな。バレんなよって言ったじゃん。1月にはわたしの好きなアニメのイベントについてきてくれるって言ったじゃん。

乱れたベッドの中で何度も話した。
「俺、入籍して会わなくなっても多分お前のこと一生忘れないと思う。こんなに相性良い人も、こんなにアニメの好み合う人も、こんなに楽しくオタ活できるのも、初めてだし。多分ずっと、たまに思い出すと思う」
「うん、わたしもずっと思い出すよ」

勧めてくれたアニメの中で特に、2人揃ってどハマりしたアニメがあった。お互いに自分の推しのアクスタを買って、ランダム特典までもらって、ニコニコ笑い合って。

2人で開封の儀を終えると、「俺んち置くわけにもいかないし、こいつ、持っててよ」と渡してきた。
「なんでよ、わたし別に推しじゃないもん。わたし自分の推したち買ったし」
「違うよ、貸すだけ。そのうち返してもらうから、そいつらと一緒に飾ってよ」

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あの日の帰り際、駅のホームで頭をポンポンしてくれたことを、なぜか鮮明に覚えている。
1.5ヶ月に1回は必ず髪を切って短めのボブをキープしていたわたしがこの頃伸ばしっぱなしなのは、「推しと同じ髪型がしたいんだ〜!」じゃない。お前が最後に触れてくれた髪を手放したくないからだよ。

ねぇ、まだうちにいるよ、お前の推し。
どうしてくれんだよ。アニメでこいつを見るたびにわたしはお前を思い出すんだよ。これからもずっと思い出すんだよ。そしてこの髪を乾かす鬱陶しさを感じるとき、ずっとずっとずっと思い出すんだよ。

分かってる。どうせお前は、世界一大好きな彼女のウェディングドレス姿を見て、全部忘れる。それでいい。幸せになれ。