冬の思い出といえば何を思い浮かべるだろうか。私はバレンタインにチョコレートをもらったことを思い出す。
女性の私にチョコレートをくれたのは、友達でも、お世話になっている人でもない。お付き合いしていたパートナーだった。

◎          ◎

私はパートナーのことを紹介する時に、「彼はこんな人で……」と紹介するべきか、「彼女はこんな人で……」と紹介するべきかいつも悩む。
私のパートナーは、Xジェンダーで男性的な部分もあるし女性的な部分もある。「戸籍が男性だから男性として生きていくけれど、男だからとか、男らしくとかは言われたくない。性別を決められると途端に息苦しくなる」と言っていた。

かくいう私も恋愛感情を見つけられないまま大人になったアセクシャル。一緒に生きていく相手の性別を気にすることはないが、恋人らしさを求められると途端に息苦しくなる。だから、性別や役割を決めつけられる息苦しさはよくわかった。

◎          ◎

そんなXジェンダーのパートナーと恋愛感情を持たない性自認女性の私が、一緒に過ごすバレンタインは、いつもチョコレート交換会になる。そして、ホワイトデーになるとお返しをまた交換する。
私はこんなカップルって素敵だなと我ながら思っている。だって、他のカップルの2倍、美味しくて楽しい体験できるのだから。

ちょっと変わったカップルとして、たくさんのイベントを楽しんできた。付き合って7年目。そろそろ結婚してもおかしくない時期になった。
パートナーと一緒に生きていく覚悟は決まっていた。でも、私は結婚するか事実婚として生きていくか悩んでいた。

なぜなら、私たちが出会ったのは、セクシャルマイノリティーのコミュニティ。友人の多くは結婚という選択肢を最初から持っていなかった。そんな中、私たちだけ結婚するのは気が引けていた。
私たちはたまたま戸籍が男性と女性だったから結婚という選択肢があるけれど、多くの友人はその選択肢がないことで苦しんでいる。複雑な心境だった。

◎          ◎

私の背中を押してくれたのは、友人からかけられたある言葉だった。

「いろいろ言ってるけど、結局あんたは、不幸なことが起きた時に、セクシャルマイノリティーのせいにできなくなることが怖いだけじゃない?今までたくさんのことをセクシャルマイノリティーだからって我慢して諦めてきた経験があるから。でも、これからは不幸になるときの想像より、幸せな未来を想像しなさい。そして、幸せになる覚悟を持ちなさい」。

私はその通りだなって思った。結婚の選択肢がない友人が……とか、私たちだけ結婚するのは……とか、そんなことは言い訳で、本当は私に幸せになる覚悟が足りなかったのだと気がついた。

◎          ◎

別に結婚ごときで私たちが幸せか不幸かなんて決まらない。そんなことで幸せか不幸かだなんて他人に決めさせたくない。私も誰かのことを、結婚という1つの側面で幸せだとか不幸だとか思いたくない。そう思うようになった。
結婚するにしろ、事実婚にするにしろ、他の選択肢を選ぼうと、私たちが覚悟をもって幸せになれる道を決めていくのだ。

パートナーともたくさん話し合って、5月に入籍することが決まった。
いざ決めてみると、結婚しても何も変わらないなと感じている。たぶん私は結婚しても、パートナーのことを、旦那でも、夫でもなく、パートナーと呼び続けるし、毎年お互いにチョコレートを贈りあう。ホワイトデーにお返しを渡しあって、「今年のバレンタインもホワイトデーも楽しかったね」って笑いあうだろう。

ただ変わるのは、幸せになる覚悟を持つことだけ。自分たちの選択にきちんと責任を持つことだけ。そして、2倍の美味しさと楽しさを心の底から楽しめるようになるだけ。
たぶんそれだけのことしか変わらない。今はそう思っている。