今年は10年に一度と言われる寒波が来た。
普段大して雪が降らないような地方まで大雪になった日、ある男からLINEが届いた。

以前好きだった男だ。
春頃に身体の関係を持って、梅雨が過ぎる頃には私は彼にすっかり恋をしていた。
そして夏から秋にかけて振られ続けた。

「久しぶり〜暇してない?」
自分を振ったやつから突然こんなLINEがくるとさすがにムカつく。こいつのせいでそれなりに傷ついたのだ。
暇なわけないだろ、と思った(家でだらだらぬくぬくしていたけど)。

とはいえしっかり引きずっていた私はそのLINEに返信してしまい、気づけば彼の家に向かって走っていた。なんてちょろい女だ。
寒さに震えている人が世の中たくさんいるのに、男の家に行くために汗だくになっている自分がとても滑稽に思えた。

◎          ◎

久しぶりに会った彼は長かった髪を切って短髪になっていた。
私にはもう恐れるものもないので「前の方が好き」と言ってやった。すると予想外に、喜ばれた。自分も前の方が好きなのに今の方が良いとよく言われるんだと。

一緒にテレビを見ていると、ある広告が流れる。
「私、池松壮亮が今日本で1番かっこいいと思う」
「わかる!俺もそう思う!」
「ねー!」
そんな盛り上がるもんじゃない広告で、しっかり盛り上がってしまった。
「この広告良いよなあ」と言う彼に、
「でも女性と男性で添える言葉の違いでちょっとTwitterで燃えてたよ」
私が説明する。
それに対して「たしかにそこは電車で見て『ん?』って思ったかも」と答えが返ってきて、この人はちゃんとその違和感に気づける人なんだと少し嬉しくなってしまった。
なんだか、以前惚れてしまったことに少し納得する。

◎          ◎

他にも、1番好きなラジオが同じだったり最新のポケモンの御三家の推しが同じだったり。私がこの前観た映画に彼も興味を持ってくれたり。
すごく楽しかった。驚くほどに。きっと楽しかったのは私だけじゃなかったと思う。

だから突然彼が男のモードになり、ショックだった。いくら無邪気に喋っていても、結局は男女なんだ。まあ以前関係を持っていた男の家に行くんだから、それなりに覚悟はして来ていたけれど。

少し嫌がりながらもキスをして、いつまでも惚れてると思うなよと思いながら服を脱がせ合う。
友達に自分はMだと言うくせに、私にはSをしてくる彼。きっとそうすれば私が喜ぶと思ってるんだ。全然楽しくなかった。だからその日は私が上に乗っかってやった。
彼は汗っかきで、行為中暑さで暖房を下げるくらい。いつの間にか私も彼の熱さに興奮していた。

◎          ◎

果てた後、彼は窓を開けた。寒波の澄んだ空気を感じる。
「今日みたいな日にこんなに熱がってるの、ここくらいだろうな」と2人で笑った。
彼の汗ばんだ身体が私に乗っかって、その重さが心地よかった。

「なんで今日私を呼んだの?」と聞いた。彼は言葉に詰まった。
何が目的だったのかは明確で。でもそれを言わせようとするのは少し意地悪だったかもしれない。慌てて謝った。
「……来てくれてありがとうね」
彼は言った。

その後彼とは会っていない。今後も会うかはわからない。未来を約束してくれない男に期待したって無駄なんだから。
でも寒波の日にしたあのセックスを、私はきっと忘れないと思う。