「好きだよ、好きだけど……」
数年前、ある男子に電話越しに言われた言葉。
これは、今でも忘れられない、私が失恋した時の言葉。

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その男子とは、中学生の時に同じクラスになった。
たまたま委員会が同じになり、他の男子よりも会話の機会が多かった彼。性格の相性も良かったのか、委員会以外でも関わりが増えていくのに時間はかからなかった。

彼はいわゆる悪戯っ子で、事あるごとにしょうもないちょっかいをかけてきた。そして、ちょっかいをかけられて満更でもない私。
普段の委員会活動から、彼が優しい人であることは十分承知していたので、無邪気にちょっかいをかけてくるのも、彼が私に心を開いてくれているからだと実感できて嬉しかったくらいだ。
「やめてよ〜」と言いながら、この楽しい時間が続けばいいと思っていた。

そんな彼とは、中学卒業を機に別々の高校へ進学した。
通学路で会うこともないような、正反対の位置にある高校。中学で毎日喋っていたことが嘘のように、彼と会う機会はパタリとなくなってしまった。

しかし、どういう思惑なのか、彼はフラッと私に電話をかけてくることがあった。
「今忙しいから」と断っても、「お願い、ちょっとだけ!」と駄々をこねられ、結局電話してしまうのだ。

大した話もないわりに、3、4時間も話し込んでいたこともある。
会えなくなっても、変わらず仲良くしてくれることが嬉しかった。
そして、その頃には、私は彼に、友達以上の感情を抱いていた。

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だが、その感情はすぐに粉々に砕け散ることになる。
きっかけは、いつものように突然かかってきた電話だ。どうしてそうなったのかは覚えていないが、その日の電話では、なぜか彼が私を励ましてくれる流れになっていた。
「〇〇はいいやつだからさ」
「もっと自信もっていいよ」
そんな励ましの言葉に、「いやいや……」と謙遜しながらも、喜びを感じていた私。
しかし、それに続いた言葉で、たちまち私の喜びは急降下した。

「俺、〇〇のこと好きだよ。あっ、好きだけど友達としてね」

彼にとっては、何気ない一言だったと思う。私を励ますために「友達として好き」という好意を伝えてくれたのだ。私を傷つけるつもりなんて全くなかっただろう。

そもそも、私の気持ちを伝えたことなんてなかったし、まさか恋愛感情として好かれているなんて、彼は考えてもいなかったと思う。

好きと言われて苦しくなったのは、後にも先にもこの一度だけかもしれない。
「私は恋愛感情として好きだよ」と否定できる強さをもち合わせているわけもなく。必死に明るく振る舞って「ありがとう」と返すのが精一杯だった。
こうして私の恋は、誰に知られることもなく、静かに終わってしまった。

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そんな彼とは、今ではもう全く連絡を取っていない。
例の一件で気まずくなってしまったとかではなく、本当にお互い忙しくなって、連絡が取れなくなってきて、そのまま……という感じだ。
あの時、「友達として」という言葉が続かなかったら……私が「好き」だと伝えられていたら……今でもたまに考えてしまう。
でも今は、「友達としての好き」だったからこそ、彼とは良い関係を築けたんだろうなと開き直っている。

いつか、「好きだよ、好きだけど友達としてね」なんて言葉で無意識に私をフった彼が、勿体無いことをした……と後悔するくらい素敵な女性になれるように。
「好きだよ」と断言してもらえるような女性になってみせると心に誓ったこの出来事を、私は一生忘れないだろう。