「あっ、痛い……」
朝5時、鈍い腹痛に叩き起こされた。
仕方なく起き上がって、やり過ごそうとする。しばらくしても、治まりそうにない。それどころか、だんだん強くなってくるではないか。そして、我慢できないほど押される、この感覚。
まさか。嫌な予感がして、トイレに駆け込む。あわてて、下着を下ろす。すると、そこは、目も当てられないほど、真っ赤に染まっていた。
「最悪……」
生理だ。また、あの長い1週間が来たのか。休みたい。だが、どんな日でも、仕事は待ってくれない。行かなくては。
◎ ◎
その日はだましだまし1日を過ごし、家に帰って、力を振り絞ってご飯を食べた。そして、疲れて床に倒れた。そのまま寝た。
2日目は、眠い。眠すぎて、今にも瞼が閉じそうだ。そして、お腹も腰も痛い。前後から、絶えず体力が絞り取られているのがわかる。こんな日に働けているなんて、ある意味奇跡だ。帰りたい。
「私、何やってるんだろう」
荷物がパンパンに積まれたカートを押しながら、よろけそうになるのを必死でこらえる。そして、物陰でこっそり、ひと息つく。
「ちょっと、あなた」
しまった、バレたか。そう思って、急いで声の主を振り返る。
「ねぇ、何でそんなに疲れてるの?」
そこには、鬼の形相で女性上司が立っていた。これは、正直に伝えるべきなのか。
「私、生理中で……」
思い切って口にすると、彼女が畳み掛けてきた。
「で、何日目?」
その勢いに気圧されながら、きちんと言おうと心に決めた私。
「その……2日目です」
やった、言えた。そう思った、次の瞬間だった。
「えぇ、じゃあ、昨日からずーっと、辛いのに仕事してるの?何でもっと早く言わないの!?そういうことは、ちゃんと言わなきゃダメでしょ!!」
◎ ◎
彼女は、それまでに見たことがないくらい、激しく憤っていた。
こちとら、やっとの思いで勇気を出して伝えたのに、それでもダメらしい。話の内容うんぬんよりも、上司である自分に対して報告をしてもらえなかったことについて怒っているのだろう。
彼女は、そのままその場を去った。結局、何かを配慮してもらえたわけではなかった。私はただ、伝えて損をした気分だった。
そんなんだから、生理だなんて、余計に言いづらいのだ。
だいたい、仕事の構造からして休みづらい。女性ばかりのチームで、毎日決まった量の仕事を終わらせる必要がある職場なので、誰か1人でも抜けると、その分1人1人の負担は倍以上に増える。その大変さを考えると、生理などというのは、取るに足らないもののように思えてしまう。そして、いつの間にか、どんなに辛かろうが何食わぬ顔で働いている自分に気づく。慣れとは、恐ろしいものだ。
◎ ◎
中には、天使のような仲間が、いないわけではない。ただ、何かが違うのだ。
「お薬、ありますよ」
うん。大変ありがたいが、他の人のために処方されたお薬は、自分の体に合わせたものではないので、安易にもらって服用するのは危険だ。そういう時は、お気持ちだけ受け取ることにしている。
「辛くなったら、いつでも言ってくださいね」
と、言ってくれる人もいるけれど、言ったところで、
「はい、そうですか」
と、仕事を減らしてもらえるとは限らないのが、私たちの職場の常だ。ペーペーには仕事の裁量を自由にする力なんてないし、そもそも、上司が辛さを理解してくれないと、そんな話は進まない。
◎ ◎
理想は、いつ言い出しても受け止めてもらえて、働き方が選べること。私のように、本当はスパッと休みたいと願っている人もいるかもしれないし、座り仕事なら何とかやれるという人もいるだろう。もちろん、普段とあまり体調が変わらず、気にせずに過ごせるというのなら、それもあり。生理だって、十人十色だ。
すべての女性が、人生の長い時間を一緒に過ごす現象。だからこそ、その人の一部として当たり前に話し合えたら、もっと楽になれる。そして、人にも優しくなれる気がする。