私が社会制度を変えるなら、戸籍をなくす。
これは個人的な体験にも基づくけれど、マイナンバーが日本に住んでいる人に付与された今、非現実的なことではないと思う。

たとえば婚姻届を提出する時、戸籍謄本が必要になる。そこには大嫌いな肉親の名前とか、少し特殊な場所の名前とか、性別や子どもとしての続柄が書かれている。

長男だの次女だのといったイエの中のポジションを、なぜわざわざ婚姻届にまで書かなければいけないのか。なぜ同性同士なら婚姻届は受理されないのか。そもそも戸籍謄本を添えなくてよければ、婚姻届に書かなくてよければ、その人が自分の意思と関係なく背負ってしまった関係性や、性別や、地名など、明記して役所に知らせることもなくなる。

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私が初めてパスポートを取った時、電子化されていなかった戸籍謄本は本籍地まで取りに行かないといけなくて、とても大変な思いをして手にした紙はすごく乱雑な字で書かれたもののコピーだった。こんなに苦労してここまで来たのになんだこれ、と思ったのを覚えている。

マイナンバーがあり、外国籍の方にも付与されているのだから、戸籍はなくした方が管理するものも減って手続きは簡略化されるのではないだろうか。

個人的には、ずっと自分を虐待してきた親と同じ戸籍にいることに耐えられず、一度分籍を経験している。新しい戸籍は自分が一人だけで、前とは違う住所が本籍地に書かれていた。それでも婚姻届を出す時には父親と母親の名前や本籍と彼らとの続柄を書く必要があって、新しい人生の準備なのにとても苦しくなってしまった。

そして私は偶然にも戸籍と一応の性自認が一致していて、法律婚という選択肢を選んだけれど、法律婚ができない人たちへの負い目のようなものはずっとある。苗字を変えるためにペーパー離婚を繰り返したり、変えないために法律婚を選べなかったり、そもそも受理をされなかったり……。

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イエなんて、近代化のために作られた幻想で、その幻想はとっくに崩壊しているのだから、早くそのことを認めてなくしてほしい。たとえば生活保護の扶養照会だって根本的になくせるはずだ。家庭、家族、といった言葉で縛るのをやめれば、近年後を絶たない虐待死事件など、親と子の関係もきっと改善されるのではないだろうか。
もちろん結びつきは個人によって異なるだろうけれど、戸籍があって家庭、イエが規定されている限り、“良い親“、“良い子“であろうとして苦しんでいる人もきっと多い。同じ家に住んでいても、一緒に住んでいる人から産まれたのであっても、みんな確たる個人だ、と思っていた方が楽なことは多いと思う。

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マイナンバーカードの性別欄は、カバーで覆われている。本籍地も書かれていない。つまり、そういう意味ではわたしたちは戸籍に縛られずに生きることができるようになった。
けれど人生の重要な局面で、たとえば女子大に入りたい時、会社に入社する時、結婚をする時、“戸籍に書かれていること“によって阻害される人がいることは事実だ。

戸籍がなくなって、困ることはあるだろうか。子どもが産まれた時、子どもの住所は親の住民票の住所で問題ないだろう。パスポートだって住民票で作ればいいだろうし、パスポートの性別もパスポートを自分で作る年齢になれば「その他」等の選択肢があれば(米国では実際にXが選択できる)、いいはずだ。

マイナンバーカードの性別だって、改名が申請できる満15歳から自分で変えられるようにすればいい。婚姻届も、住民票を添えればいいのだし、個人間の結びつきに性別は関係ない。同様に結婚してもそのままの苗字を選択することだって可能だろう。もちろん変えたい人は変えられる。

より広い選択肢のある世界のために、戸籍はない方がきっといい。