誰とでも仲良くできて、人との交流に積極的。社交的な方だと思っていた。
お世辞だと分かっていても、周囲から「好かれる人柄」なんて言われる度、安堵する。なぜなら「人付き合いが得意じゃない」という、本当の顔。誰にも見せられないまま、今日も仮面を被って生きているから。

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7年前、念願だったライター職への就職がかない、地域情報誌の製作に携わるようになった。いかに幅広い人から、中身の濃い話を聞き出せるかで記事の質が変わる。人脈がものをいう仕事だった。
入社後は、とにかく成果を上げたくて、無我夢中で地域を駆け回った。誘われた宴会はチャンス。声をかけられたら、何としてでも出席した。

席をともにした人と会話すればするほど、新しい情報や知識を得られ、仲の良い人も増えた。最初は、楽しかった。
場数を踏むほど誘われる回数が増え、多い時は週4日、酒場へ足を運んだ。同席する人の年齢や職業もさまざまだった。社会人として、経験値を上げられた気がする。

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いつからだろう。参加者の性格、参加人数、場の空気感……。自身の振る舞いを気にするようになったのは。
笑顔をつくり、話を聞き入るふりをしてやり過ごす。疲れていても、気が進まなくても、2次会、3次会と、全員が帰るまで居座った。
帰ると、倒れこむように眠りについた。化粧をしたままの顔に、一晩たっても消化しきれず、胃に残っている飲食物で重い体。翌日はたいてい、不快感を覚えた。飲み会を控えようと、何度も思った。
「断ったら、この人との関係はどうなるだろう」
「今後、仕事に影響するかもしれない」
ふと頭をよぎり、断るという選択肢を取れなかった。

知らず知らずのうちに抱え込んだ日々のストレスに加え、アルコールで狂った食欲が、私をさらに追い込んだ。
飲み会後、“ご褒美”としてコンビニに立ち寄り、スイーツを買い込むようになった。満腹なのに、大量のスイーツを口に含む。爽快感が得られるのもつかの間、「もっと」と体が欲し、気持ち悪くなるまで食べ続けた。

そんな生活で、体重は半年で5キロ以上増えた。どんどん惨めな姿になっていくにもかかわらず、相変わらずコントロールできない食欲に襲われる。どうにもできなかった。自分が嫌いになった。
ある時、いつものように食べ物を口に放り込みながら道端に寝転がり、泣きじゃくった。限界は、すぐそこまで来ていた。

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コロナを機に、飲み会が一気になくなった。日常の大半を占めていた予定がなくなり、人とのつながりが途絶える日々に虚無感を覚えたが、ジョギングや読書、料理……時間やお金を自分に投資できるようになった。飲み会によって習慣化してしまっていた暴飲暴食、人の顔色を伺って話す悪癖もほんの少し、改善した。心身が、健康に向かっている。
私は大好きな仕事のために、自分を殺していた。ひとりでいる時間も大切にしたいし、何より、自分を偽って人付き合いできるほど、人間ができていない。

何より、社交の場が減っても、仕事には何ら支障がないと分かった。気の合う人とは今まで通り食事したり出かけたりしている。今まで以上に、親密な関係を続けられているような気がするし、仕事にもつながっている。もちろん、疎遠になった人もいるが、いなくたって、私は生きていける。

コロナ禍3年目にもなると、飲み会を断る決まり文句は通用しないだろう。それでも、参加したくなければ断るつもりだ。無理をして人に好かれなくていい、素顔で堂々と生きていきたいから。