飲み会。
酒を飲みながら語り合い、親睦を深めることを目的とする会である。
かつて「飲みにケーション」という言葉が流行ったほどに、社会人が上司や職場の方々と円滑なコミュニケーションを取るための手段として用いられてきた。

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そんな飲み会もコロナによって強制的に自粛を余儀なくされる期間が続いた。
コロナ入社の私は、新入社員歓迎会、忘年会、新年会、慰労会のいずれも経験したことがなく、飲み会と無縁の社会人生活を送ってきた。
元々お酒は友人と楽しく飲みたいタイプの私にとって、上司の経験談を頷きマシーンのように聞き、おだてるイメージである飲み会という場がないことは非常に楽だった。

そんな安息の時間も、世界がコロナとの共存を模索するうちに徐々にかげりを見せ出した。
「睡蓮、今日飲みいくぞ」
「あ〜すいません、今日は先約が」
苦笑いしながら何度この会話を繰り返しただろう。
空白の3年を取り戻すかのように、ここ最近加速度的に飲み会の誘いが増えている。
飲み会が得意ではなかった自分にも当然お声がかかるようになり、全ての飲み会を断るわけにも行かず、5回に1回程度は飲み会に参加し始めた。
「お金もったいなかったな〜」
参加後に感じることといえば決まって同じ。
ポジティブな感情が生まれることはほとんどなく、ただただ後悔の波が私を襲った。
そんな私が、飲み会と徹底的に決裂した出来事があった。

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ピロン。
「今度いつものメンバーで韓国会をしたいと思いますが、皆様参加可能でしょうか」
メッセージを確認すると同時に深いため息が出る。
私の会社には韓国好きで構成された韓国会と呼ばれるグループが存在する。
私を含めメンバーは4人、集まれる人だけで韓国料理屋での飲み会が繰り広げられる。メンバーの1人が会社の偉い方ということもあり、断ることもできず、その方のありがたい?お話を聞く、私の嫌いな飲み会に強制参加をさせられていた。

正直断りたい気持ちでいっぱいだが、なんだかんだ参加しなければならないのかなと鬱々としていると、メンバーが続々とLINEに反応する。
「韓国会の参加可能です」
「参加可能です」
あっという間に、私以外の3人は参加可能となり、残りは私の参加の可否のみとなった。

「参加のご連絡ありがとうございます。睡蓮ちゃんはどうかな?」
仕切ってくださっていた先輩のメッセージに被せるように、偉い方からメッセージが届く。
「今回は4人に加え、特別ゲストも参加予定です」
そのメッセージに眉間の皺が深くなる。そして私は会社のメールを開いた。
そこには、4人を超える人数での飲み会は、原則不可という文言が赤文字で記されていた。
「お疲れ様です。今回の韓国会ですが日程的には参加可能ですが、5人となるとルール違反となるため、今回は参加を見送らせていただきたく思います」
怒りで震えながら私は先輩に個人LINEでメッセージを送り、韓国会への参加を断った。

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私の仕事は非常に特殊で、1人が欠けた際の他者への負担が非常に大きな仕事である。
そのため、コロナの社内流行を防ぐための厳格なルールも存在し、互いのために誰一人コロナにかからず乗り切ろうという想いでそのルールを守っていた、はずだった。
もちろんルールを守っていながらもかかってしまうことはあるだろうし、患った人のことは一日でも早く良くなってほしいと願ってきた。
そんな想いでここ数年を生きてきた私にとって、ルールで私たちを縛る立場の人が、簡単にルールを破るような発言をしたことにひどく失望した。
仮に感染が起きたらどう責任を取るつもりなのだろう、そう思うだけで怒りで震えた。

それからというもの、私は韓国会に全く参加しなくなった。
「若い頃は断ったことなんてなかったな」
ルール破りの彼からは怪訝な顔と共に吐き捨てられたこともあった。
しかし私は笑顔でその言葉を跳ね除ける。
私に重要なのは彼に気に入られることではなく、偽りや後ろめたいことのない自分として胸を張って生きることなのだから。