青のカラーマスカラ。大粒のラメがたっぷり入ったクリームアイシャドウ。紫に近いピンクのリップに、赤系統の色味を何色も収めたアイシャドウパレット。
大学1年生まで、私は化粧品が大好きだった。

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15歳くらいで少しずつ化粧を始めて、あっという間にそのカラフルでキラキラした世界に引き込まれた。

今でもはっきりと覚えているのが、高校生の時にジルスチュアートのいちごの形をしたリップが欲しくて欲しくてたまらなかったこと。でも当時の私からすると、とても手を出せない金額だった。廃番になったのだろうか、気がついたらお店から消え失せていた。

好きなコスメブランドの新作情報をネットやSNSでくまなくチェックし、発売され次第お店まで実物を見に行く(私の場合、もはや『観に行く』って表記した方が正しいくらい、じっくりと視線をこらすのだ)。

デパートの化粧品売り場は、最初は入るだけで緊張した。18歳の時、初バイトのお給料を握りしめてイヴサンローランの売り場に震えながら足を踏み入れたの、懐かしいなあ。その時に買ったリップはもうとっくに使い切ったけれど、捨てるにはもったいなくて、未だに保管している。

将来は化粧品業界で働きたい!
化粧品業界の倍率の高さなどつゆ知らず、私は中学生の頃からそう言い続けていた。

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そんな私が今は、「化粧品は各アイテム一つずつ持っていればそれで良し、出かける予定が特にない日は日焼け止めとリップクリームだけでOK」という生活を送っている。人生とは、何が起こるか分からないのだ……。

大学2、3年生頃から、私の「化粧品愛」は目に見えて失せていた。ドラッグストアやデパートで新作を見てワクワクしたり、「次のマスカラはあそこのブランドのあれにしよう」とウキウキすることは沢山あったのだが、そのときめきの鮮度が以前より明らかに低下していたのである。

少し前まで、SNSの美容アカウントを通して新作の情報を入れては発売日を指折り数え、発売されるなりお店にGOという熱量を保っていたのに……。

今思うと、マスク生活によって化粧をする機会が格段に減ったのが理由だろう。
「化粧品に対して前ほどときめかなくなったな」というのは、自分でも何となく気づいていた。それでも中学時代からの宣言通り、そのまま化粧品業界を中心に見ながら新卒での就活を始めたのだが、メーカー総合職や美容部員など片っ端から祈られまくられた。最終的に、化粧品とは全然関係ない業界で事務職として働くことになる。人生とは何が(以下略)。

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自分が就活を終えた今も、時々Twitterを開いては昨今の就活の状況を眺めている。
先日、今の大学3年生で化粧品のマーケティング職を目指している子の「就活アカウント」を見つけ、「そりゃ私が祈られるわけだわ〜」と納得してしまった。

そのアカウントの化粧品にかける情熱は、ピーク最盛期の私のそれと比べても桁違いだった。ただ好き好き言っているだけじゃなくて、各ブランドの特徴、業界全体の課題などを、自分から惜しまず勉強している姿勢がよーく伝わるのだ。そりゃ、マスク生活くらいで化粧品愛が冷めた私が祈られるわけだ……。

今思うと、化粧品愛が冷めたのは新しい趣味ができたのも関係がある気がする。
大学でたまたま美術史の講義を取ったのがきっかけで、私は美術展によく行くようになった。1日で3軒はしごすることもある。暇さえあれば「美術展 今年」「美術展 ○○(私の住んでいる都道府県)」で検索をかけ、片っ端から足を運び、ポストカードを買ってはホクホク顔で帰る日々。

あれ、そう考えてみると、私がやってること、化粧品オタクだった時と大して変わらないのでは……。

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鏡に映った素顔を見て、かつて化粧品愛がピークだった頃に思いを馳せる。昔はこの顔一つのために、リップもアイシャドウも4つずつくらい買ってたんだよなあ。今となっては遠い日の思い出だ。

お金をかなり無駄に使った感は否めないけれど、私は化粧品に随分助けられた。友達と自分を比べて落ち込んだ時にはアイシャドウで気分を上げて、バイトで失敗して悩んでいた日にはネイルを塗って上向きな心持ちになった。ありがとう、化粧品たち。

もう今は落ち込んでも化粧品の「やけ買い」に行かない。以前より軽くなった化粧ポーチ、そしてまっさらな顔が、私の変化を物語る。
春から社会人だ。ピーク最盛期だった頃とはまた違う意味で、またばっちりメイクを決めなければいけない。それまではこの素顔を楽しむかあ。

鏡に映るこの素顔のように、私の未来もまっさらなものでありますように。それをどのように彩っていくかは、私が今後何を感じ、思い、生きていくかにかかっているだろう。