私が高校生のときから密かに思い描いていたのは、「留学」という夢だった。
小学校のときに読んだ児童文庫シリーズで、フランスが好きになり、憧れを抱くようになった。フランス革命に関する歴史漫画を読み漁ったり、フランスの世界遺産を調べたりして、いつか自分もパリに行きたいと思うようになった。
ヨーロッパの街並みはおしゃれで、街ゆく人もなんだか素敵。可愛いスイーツがショップにたくさん並んでて、カフェでおしゃべりを楽しむ。そんな、漠然と思っていたことが本格的に目標に変わったのは、友人が短期留学をしたのを見ていた高校生のときだった。

私は英語の部活に入るくらいには英語が好きだったし、他の教科と比べて得意科目だった。一方の理系科目は全然で、数学も物理も化学も全くもってできなかった。理系的センスは皆無だし、どんなに勉強しても成績が上がらない。苦しんだ日々。英語のおかげで救われたといっても過言ではない。

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とは言っても、去年の私にとっては「留学」なんて遠い先の未来だった。その原因は、留学手続きに関する情報の少なさと、コロナ過での留学の実現可能性の低さにあった。
過去に文系の学生が留学した例はたくさんあったけれど、理系のそれも学部生が留学した例はほんのわずかだった。留学するためには何をどうすればいいのかも分からなかった。
交換留学は再開したようだったが、長期休みを利用した短期留学プログラムは全てストップしていて、留学に対するモチベーションも下がっていった。そして何より、四年で卒業するのは難しい、という壁にぶつかった。
単位互換できる制度は存在するが、帰国して申請してそれが通るまで、どれだけの単位が互換できるのかは分からない。卒業時期を一年伸ばして大学五年生をする先輩も多いと聞いた。
私は、理系であるからといって必ず大学院に行くべきだとは思わないし、進学するかどうかもまだ決めてはいないけれど。高校時代の同級生の中でも、もっと上の大学を目指して受験生を延長した人も、大学の友人にも一年浪人して入ったという人がいる。それならば。自分の可能性が広がる一年なら。このチャンスを手放したくないと思った。

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そして私は、思い切って一年間の交換留学という選択に踏み込んだ。留学の一年間は、決して無駄なんかにはならない。そうならないよう充実した生活を送れる自信がある。

英語は、コミュ障で人見知りな私が素直でオープンになれる、最強のツールだと思う。それはきっと、英語が流暢でないからこそ「伝えよう」という意識が働くからだろうけれど。
英語を使うことで、本当にいろいろな人とのコミュニケーションが可能になる。国籍も年齢も性別も関係なくて、大切なことって人と人のコミュニケーションなんだな、って感じられる。
ふと気がつくと、私ってこんなに話せるんだっけ、と思う。自分でも気づかない自分になれていた。好奇心旺盛で、積極的な自分。それは昔、私がなりたかった自分だった。

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それでも、私が留学に行くことに関して、お母さんやおばあちゃんはものすごく心配している。友達にも恥ずかしくて言えないほど私の部屋が汚くて、これまでまともに料理をしたことがない私が、留学なんて、と思っているのだろうけれど。それは、私に対する愛情からだと分かってはいるけれど。だけど、ここまで来たのに今さら引き返せない。私は、まだ見ぬ夜明けの空を、探し続けている。

出国までのあと半年間。自炊の仕方を教わったり、語学の勉強をしたりと、まだまだやるべきことは山積みだ。
半年後、イギリスへ旅立つ私へ。どんなことがあっても、負けないで。辛いことがあったらまた、ここに戻ってきてね。それから、たくさんのことを吸収して、強くなって日本に帰ってきてね。