10年前の私は、日本の伝統文化が好きだった。
東京の下町で銀器作りやガラス細工作りに飽き足らず、東京から京都に何度と足しげく通い、東京23区の位置が分からないくせに京都の神社仏閣をすっかり把握するほど日本の伝統文化に傾倒していた。

グローバル化に反抗し、日本の文化を極めようと思っていた

当時、グローバル化という教育方針を政府が積極的に謳い始めた時勢でもあったことが、反抗的だった学生の私には逆に作用して、その手には乗らん、私は日本文化を極めてやるという考えに固執していた。
大学受験に際しては、古文を極め英語を捨てるという時代錯誤も甚だしい手法で乗り切ったほどだ。大学に入ってからは、日本のことを知らないくせに留学したがる人を馬鹿だと見下していた。

そんな私の転機は、就職活動が終わった大学4年生の時だった。
夏休み中の約1カ月間、イギリスに短期留学できるかつ修学単位としても認められるというプログラムがあった。短期集中で単位を取れるという点はもちろん、就職活動のなかで、英語が使えた方が圧倒的に有利だということを痛感していたこともあり、今まで全く興味がなかった留学を決意した。

海外旅行経験が全くなかった私は愚かなことに、カラーコンタクトにつけまつげという元の自分の姿とかなり乖離した姿でパスポートを取得した。

トランジットのフランクフルト空港でさえ、私は驚きを隠せなかった。
日本語の看板がなく、白人だらけの世界。独特の異国の匂い。世界中の行き先が書いてある電光掲示板。
一番驚いたのは、海外嫌いの私の胸が高鳴っているということだった。

なんて世界は広いんだろう。映画や資料で見た風景に感動した

短期間の留学だったので、英語力が格段に上がったということは残念ながらなかったが、得られたものは大きい。

まず、ひとつは視野が広がったこと。初めて海外に行った人はきっと同じことを思うだろう。映画や世界史の資料集で見た風景をいざ目の当たりにすると、なんて世界は広いんだろうと感動した。

宮大工を崇拝する私だったが、ステンドグラスの美しさに感動した。優雅に庭園でアフタヌーンティーをするイギリス人が、スコーンに蜂が止まってもまったく動揺しないということにも驚いた。

そして、二つ目は友人が出来たこと。留学生のお世話をしてくれたトムには、恋をしかけたくらい、素晴らしい時間を過ごすことができた。最終日に日本語で書いてくれた手紙を受け取った時、涙が止まらなかったのを今でも覚えている。

ヨーロッパに魅了され、社会人になってからも足を運んでいる

イギリス人の友人も数人出来たが、それよりも同じ大学の友達が出来たことも大きかった。
私は大学に入ってからというものバイトばかりしていたので、大学に友人がほとんどおらず、この留学をきっかけに十年来の友人というものができた。深夜、イギリスの郊外で、「全くバスが来ないからあったまろう」とワインを回し飲みしたのはとても思い出深い。

ヨーロッパに魅了され、卒業旅行はフランス、イタリア、オーストリア、チェコ、スロバキアとヨーロッパ一色に染まり、社会人になってからも、長期休みを取得する際にはなるべくヨーロッパ方面に足を運んでいる。

やっと海外旅行も解禁されつつある今年、なんとかしてギリシャ辺りに行きたいなと思いながら、仕事に励んでいる。