未来の私は、幸せであって欲しい。
そう思いながら色んな選択をしてきた。
仕事も、今きつい経験をしておけばそれ以上苦しいことがあっても乗り切れるはずだし、恋愛も、今までは慎重だったけど、今回は付き合ってから好きになる恋もありかもしれないと、軽い気持ちで始まった恋だった。
けどそれは、私には合わなかったらしい。忍耐強い私が、付き合って3ヶ月で限界になった。

◎          ◎

「これからのことで、話したいことがあるんだよね」
「え?なに?」
「大事なことは直接話したいから、次会うとき言うね」
ずっと我慢してた。好きなのに一緒にいることがこんなに苦しいとは思わなかった。
長女というのもあってか、彼が長男というのもあってか。
LINEでそう打つと、すぐに既読が付き、「そういうことはすぐ話したいから、今すぐにでも行きたいんだけど」。

次の日の仕事終わり、彼が迎えに来てくれた。
私の家に向かう車内で、今までは沈黙が当たり前だったのに、この日はやけに明るく振る舞う私がいた。
それに、先月注意した「もっと返事、どうにかならないの?」というのを反省してか、彼は明るい私に楽しいリアクションを返してくれている。
そんな楽しい空気感が、とても気持ち悪かった。
家に着くと、結局いつも大事な話を切り出すのは私なんだよな、と思いながら口にした。彼の目を見て、はっきりと。
「あのね、一緒にいると苦しいんだ。私が喜ぶ顔が見たくてしてくれること全部、嬉しくないことも笑顔で答えなきゃいけないってなっちゃうの。それにね、これが嫌だとか、そういうの、言うのも疲れちゃった。もう、~くんのこと好きじゃない。だから別れよう」

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彼は目を見開いて、驚いた様子だった。まさか別れ話なんて、想像もしなかったんだと思う。
私は感情的にならずに、淡々とゆっくり感情を吐き出した。
彼が、私の「別れよう」を受け入れるのに4時間くらい経過した。
今更出てくる彼の想いが、苦しかった。なんで付き合ってるとき、それを言ってくれなかったんだろうと、苛立ちすら覚えた。
でも、そういう不器用なところも愛おしくて好きだったんだよな。
彼の涙は、初めて見た。そして彼は玄関で悲しそうな顔をして、「ほんと、バカだなあ」と言って、笑顔になりきれない私の頬をつねって笑った。
私がぐちゃぐちゃの苦しい顔を、笑顔いっぱいにすると、「それでいい」と安堵の表情を浮かべて、散々手をかけるのを渋っていたドアノブをまわして、出て行った。

出て行って欲しくなかった。好きだったから。ただ、好きだけじゃどうにもならないこともある。私が私でいられないから、この選択は間違ってない。
そう自分に言い聞かせないと、耐えられなかった。

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私は別れた後に、「バカだなあ」と言われた意味を考えた。
「普通」に存在する私は、愛されない。だから、「愛される自分」を作らないといけない。
だから、自分の内部に入り込もうとする人たちを拒絶してしまうのだと。
「いつも明るくて」「どんなときも笑顔で」「何があってもポジティブで」と、評価される自分を作ることで、「普通」に存在する自分を隠すことができるから。

結局は、彼のことを思って別れたのではなく、寄り添ってくれようとした、内部に入り込んで来ようとしてくれた彼を、受け入れたくても、受け入れることができなかったのだと思う。
「ほんと、バカだなあ」
自分で言うと、やけに心が軽くなった。そこには、なんて生きるのが下手くそなんだよと、人間らしい部分に愛おしさを少しだけ感じた気がした。

でもきっと、このままではいけない。
普通に存在していてもいいのだ、と自分で思えない限り、どんな人と付き合っても無理をしてしまうと思うから。
それに気づけた、気づかせてくれた恋だった。
こうして気づいて、傷ついて、踏ん張って、笑える。そうした今があるから、未来の私は幸せに近づくのだと思う。