年収数千万も稼いでいる、すごく仕事ができて、人望もあるおじさんが言っていた。
「俺は一回も結婚したことないんよ。だから多分、どこか欠陥があるはずなんや」

とんでもなく優秀で、業界で名が知れていて、飲み会になると抜群に面白くて、みんなに好かれている、そんなおじさんなのに、結婚したことがないことをこんなにコンプレックスに感じているのか。
絶対幸せだと思ったのに、びっくりした。

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未婚という烙印って、そんなに大きいものなのかな?
そんなことをふと考えた時、自分自身が結婚というものに縛られていた、高校から大学までの7年間のことを思い出した。

田舎の高校生だった私は、自分がそんなに可愛くないんだと知っていた。
だからすっぴんでいなければいけない高校生は恋愛なんてしても無駄だと悟っていた。

大学になったらなるべくお金を稼ぐポテンシャルのある人と出会って付き合って、トントン拍子で結婚しなきゃ。だって私は美人よりも選択肢が少ないんだもの。
そんな焦燥感に駆られ、必死に勉強した。

第一志望の大学に合格し、賢くて一流メーカーに行った彼氏ができた。
とにかくこの人と結婚しなきゃ。そう思って思って、ひたすら彼に尽くした。

3年付き合って別れた時には、全て終わったと思った。
でも後ろを向いている暇はないから、また新しい彼を見つけるために、毎日のように飲み歩いた。私だって人並みに自分だけで生きれるくらいには稼いでいけるはずなのに、何故だかとにかく、結婚しなければ幸せになれない、子どもを生んで幸せな家庭を築きたい、と頭の根底にある希望がずっと離れなかった。

その日は確か土曜日で、合コンで出会った男性と食事に行く約束をしていた。
確か彼は、「彼女いらない」と言っていたはず。好きなアーティストが似ていて話が合ったから誘われた。

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その日が、私にとってのターニングポイントだった。
この世で1番幸せなデートだった。
最初は好きな音楽の話をしていたが、だんだん彼自身の夢の話になった。
「俺はこういう夢があるから、それを叶えるためには恋人は必要ないんだよね。それよりもやりたいことがたくさんあるし」
「だからたくさん勉強してるし、その夢があるから今この仕事をしているし」
自分の人生を生きるって、こういうことなんだと思った。
帰ってすぐ、私は、自分が本当に何をしたいのかを考えて、ぐちゃぐちゃのメモにまとめた。

今、私は東京から離れ、長閑な地元で一人暮らしを始めた。
都内で毎日のように飲み会に行くこともなくなり、自分を見直す機会が増えた。
自分の中で、人のために活動したいな、という善意があることに気がつき、本業の他にも、副業でちょっとした事業も始めている。
彼氏なし、単身で田舎に引っ越し、そんな私を、母と父は心配しているけど、意外と他のみんなは応援してくれている。

これから私はどこに住むのか、いつか結婚するのか、どんな生き方をするのか、全然わからないけど、私は自分の人生を生きていきたい。

未婚の烙印?
未婚だの既婚だのに囚われてる方がだっせえよ。
だからあの時出会ったおじさん、あなたは自分の人生を生きてくださいね。
二十も年下に言われるなんてクソ生意気だけど、心からそう思います。