この春、私は社会人3年目になる。
私は早生まれで、卒業式の時期にやっと誕生日を迎えるから、同じ学年の同級生よりも、いつも1歳年下だった。そう、いつも若い気分でいられる。
同じ部署に入ってきた後輩たちは、5年間で大学を卒業したり、大学院を卒業しているから、実は私が部署で一番若かったりする。
そんな私だって、大学生の頃は大学院進学を考えていたから、私が大学を卒業してすぐに働き始めて、もう仕事の後輩もできたなんてたまに信じられなくなる。
質問をすることよりも、「どうしたらいいですか?」と質問をされることが増えてきて、私宛てのメールや社内連絡が届くことも増えた。

この春、私は会社を辞めるはずだった。
この春、私は結婚して、名字が変わるはずだった。
この春、私は海外移住するはずだった。

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「かがみよかがみ」でエッセイを書き始めて、そろそろ1年が経つ。
きっかけは、3年間遠距離恋愛を続けた外国人の彼との別れだった。
「ゴールイン!結婚!」目前だったのに、別れを切り出してしまったのは私だった。
国際恋愛の経験者だからといって気取っているわけではないけれど、国を越えた恋愛は、同じ国に住む人同士で交際するのとあまり変わらない。
言葉の壁や価値観の違いはあるけれど、同じ国に住む人同士で交際しても、言葉の使い方の違いや価値観の違いがあるからだ。
「国際恋愛なんて大変だね」と当時はよく言われたけれど、私は十分幸せだった。

ただ唯一残酷なのは、どちらかが、もしくは両者が、生まれ育った母国を離れないといけないことだ。
私が日本を去るか。彼が日本に来るか。
申し訳ないけれど、彼が日本で生き延びていくことは無理だと思っていた。
日本語が上手ではないという意味ではないし、日本語を勉強していた彼は、日系企業で働いてみたいとも言っていた。
だけれど、彼の性格や生活習慣は、日本には馴染まないと私は思っていたし、彼がこの国で出世してキャリアを積んでいけるとは微塵も思わなかった。
当時の私が決めた最大限の妥協は、私が日本を去ることだった。

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ただし、2年待つこと。
当時、私は大学院進学を諦めて、就職の道を選び、やりたいと思っていた仕事を始めるタイミング。せっかく新卒入社した会社を結婚のために、海外移住のために、すぐに退職するのはもったいないと思った。
だから、2年後に退職しようと心に決めた。2年間でやりたい仕事を全部やろうと。

そして約束の2年はあっという間に経ってしまった。
今の私は、2年前の私が想像していた姿とは全く異なっている。
結婚していないし、寿退職もしていない。

結婚を考えていたあの外国人の彼との交際が続いていたとして、今仕事を辞める決断ができるかと聞かれると、正直分からない。
私がやりたい仕事で、どんどん任されることも多くなってきて、ストレスも残業も増えるばかりだけれど、それでも私は胸を張って今の仕事が好きだと言える。
しかめっ面でパソコンに向き合ってしまう場面もあるけれど、同僚と時々愚痴を言い合いながら笑っている場面だってある。

ただ、2年間だけと心に決めて、全力で仕事に打ち込んできたから、「一通りやりきった」と感じてしまう時もある。
つい最近、転職サイトに登録をして、「へぇ~。こんな求人があるんだ」と調べ始めたところだ。

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寿退職をするはずだった外国人の彼とは、別れてしまい、その後に付き合った日本人には二股をかけられて、私は失恋した。

元彼氏と二股をかけた相手(現在の交際相手)は同じ勤め先で、現在の交際相手のSNSアカウントさえ私は知っている。
元彼氏を恨んでいるわけではないし、現在の交際相手を懲らしめてやりたいというわけでもないけれど、ベンチャー企業に勤める彼らが、会社名を出した上で更新しているTwitterアカウントを見てしまう時がある。見ない方がいいと分かっていて、見てしまうものだ。
淡い色の服装で、いかにも「優しくてまっすぐで素敵な人」という感じで、笑顔を見せる写真を見ると、「そんなに心が美しい人ではないのに」と思ってしまう。
たまにふと「恋人がいると分かっていて一線を越えた略奪愛だ、って勤め先全員に知らしめてやろうか」と復讐心を感じる夜だってある。
ドロ沼恋愛ドラマのようなストーリー展開を期待してしまう自分もいるけれど、何もせずに大人しくしていられるのは、きっと今の恋人のおかげなのだと思う。

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結婚すると思っていた人生が白紙になってしまって、寿退社に憧れを抱いていたわけでもないけれど、なぜか「成し遂げられなかった」という虚無感が残る。
そんな気持ちも全て理解してくれて、包み込んでくれるような人が今の恋人であって、私たちの将来がどうなるのかは分からないけれど、なぜか将来のことについて話しても全く不安にならない相手だから。

私たちの不透明な将来に乾杯。