25歳の秋、私は運命にしたい人と出逢った。
その人は冷静で優しくて、静かにあたたかい人だった。
私は仕事で大イベント二つに着手し、無事終えたものの慣れない業務のなか順調に行かない場面もあったため、自信を無くしているところだった。
ある夜に謎の酷い腹痛に襲われた。
下腹部がズキズキ痛み、寝返りもできないほどだった。
次の日もその痛みは続き、歩くのも辛く、このままでは仕事に集中できないと思い仕事の合間に病院に向かった。
一つ目の病院で盲腸だろうと診断されたのだが、その病院では詳しい検査ができないということで大きい病院を紹介された。
紹介された病院に着くと、緊急の患者さんが来るような場所に案内された。
見たことのない機器がたくさんあり不安な中、看護師さんに採血されているところに先生が来た。
私にとって大切にしたい出会いとなる瞬間だった。
◎ ◎
先生を見た第一印象は「若いな」だった。
私は発熱もしていたためまずPCR検査を受けることになった。
先生は「このご時世なので……」と話してくれた。
その時はコミュニケーションを取ろうとしてくれていると思っていたが、今思うと「コロナじゃない」と怒る患者さんが過去にいたから説明してくれたのかもしれない。
先生は私の目を見て話を聞いてくれた。
説明をしてくれる時もしっかり私を見て、私が理解できているか確認しながら伝えてくれているように感じた。
お薬を出す時も、一方的に何日分と言うのではなく、私の反応を見ながら決めてくれた。
先生はしっかり私と向き合ってくれている、心から信じることができた。
先生の言葉でお腹の痛みが和らいだ気さえした。
私は結局盲腸ではなく、後日の診察で別の病気の疑いがあると診断されたものの、それも手術の必要はなく大事に至らずに済んだ。
先生からは最後に「再発しやすい病気なのでまた痛くなったら来てください」と伝えられ、二度の診察で終わった。
◎ ◎
それから再び同じほどの腹痛が起こることはなかったが、私の心には先生の存在が居続けた。
先生といると穏やかな気持ちになれた。
先生と対面すると私をちゃんと見てくれていると実感することができた。
すごく好きだし、これからも好きでい続ける自信がある。
周りからは、たった二度しか会っていないのにおかしいと言われた。
医者としての先生しか知らないのに何を好きなんだとも言われた。
確かに自分でもここまで惹かれるのが不思議でたまらなかった。
それでも私は先生を想い続けたい。またもう一度会いたい。
出会ってすぐの頃こそ、どうにか先生にもう一度会いに行けないかとばかり考えた。
またお腹が痛くなることを願ったし、仮病を使って会いに行く事も考えてしまった。
でもどれも最適ではなく、先生に迷惑をかけることでしかなかった。
先生を好きだから、私は先生の邪魔をしたくない。
先生を好きだけど、今は会えない。
先生を好きだからこそ、いつか会える時をただひたすら待ちたい。
◎ ◎
怖かった救急車のサイレンの音を聞くと、先生が頑張っている音だと応援する気持ちが芽生えるようになり怖い音ではなくなった。
もっと自分を誇れるようになりたい、自分が本当にやりたいことは何か考え直し実際に行動に移すようになるなど、自分自身の人生に向き合うようになった。
もっと自分を好きになりたいから、日々の生活を充実したものにしたいと思うようになった。
そして何より、先生に幸せでいてほしいと願うあたたかい気持ちを知った。
そんな先生にいつか感謝を伝えたい。
先生のおかげで私は変わる勇気を持つことができた。
先生のおかげで向き合ってもらえる喜びを知ることができた。
そして次会うことができた時には、成長した私が先生にあたたかい気持ちを届けたい。
それまで私は先生を想い続け、走り続ける。