憧れのWebメディアで編集アシスタントの仕事が始まった。仕事では今まで経験したことがないことを多く教えてもらい、毎日がすごく楽しかった。

主にWeb記事の入稿や修正、外部のライターとのメールのやり取りなど。「この会社で長く働いて様々な経験を積んで、会社に貢献できるように頑張るぞ!」と意気込んでいた。

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編集部には面接をしてくれた上司、女性スタッフが二人。一人は、私より一か月前に編集未経験で入社しているRさんと、業務委託として働くライターさん。
上司からは毎日のように叱られた。上司の口癖は「分かります?」だ。自分の話をした後、相手が話の内容をちゃんと理解しているのかを確認するため、「分かります?」が会話とセットになって付いてくる。

仕事で分からないことが多く、自信の無さから声が小さくなる。分からないところがあっても、まわりが忙しそうに働いている姿を見ると、質問を躊躇してしまう。

このままだと、2週間のトライアル雇用で契約終了になる、社会人としてなっていないと口酸っぱく言われ続けた。私は20代後半にもなって、社会のことを知らなすぎなのだろうか。

以前、同じくトライアル雇用で入社して、残念ながら本採用までいけなかった人もいるというのは上司から聞いていた。「自分もそうならないように」と釘を刺されるように。仕事はすごく楽しかったけど、本採用にならなかったらどうしようと不安になったり、へこんだ。

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入社して数日経ってくると出来ることも増え、だんだんと自信が付いてきた。その姿を見て上司が「頑張ってね」と声を掛けてくれる事もあり、俄然やる気が出た。早く仕事ができるようにひたすらPCと向き合い、メモしたことは清書してノートにまとめた。分からなかった事が出来るようになると嬉しい気持ちになる。

同じく未経験で入社したRさんは、私に対する当たりが強かった。

Rさんはトライアル雇用を見事に突破した人。本人から聞いた話によると、入社した頃はタイピングもできず、家では集中できないのでカフェに籠って5時間ぐらいタイピングの練習を日々、繰り返していたようだ。

自分も未経験で大変かもしれないのに、後から入社した編集素人の人間を教育しないといけない。申し訳なくなった。私がちゃんとしていないから。分からない不安による自信の無さが、まわりをイラつかせたのかもしれない。

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最初の頃はまわりに話しかけるのを恐れ、一人で黙々と作業をしていた。
「なぜ自分ひとりで仕事をする?」
「分からないことがあったら、ちゃんと聞いてきてください」
そのことで一番、怒られた。

一人でちゃんとできるようになりたい。まわりに迷惑を掛けたくない。だから一人で黙ってPCと向き合っていたけど、それがマイナスポイントだった。分からないことがあれば、必ずまわりの人に声を掛けて聞く。そんな当たり前のことが、どうして出来なかったのだろう。同じ仕事をする仲間なのであれば、積極的に話しかける人の方がやる気が見えるし好印象だ。

このままでは良くないと思い、自分からもまわりのコミュニケーションを大切にしたり、積極的に話しかけるようになった。あとからRさんに「わたしも強く言い過ぎてしまってごめんなさい」と謝られた事がある。少しだけ距離が近くなった気がした。

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お昼は節約のためにお弁当を持参しており、1人デスクで食べていた。Rさんとライターさんは、仕事の引継ぎがあるとの事で2人でランチに出かけていた。

「私も一緒にお昼に行きたい……」となんだか寂しい気持ちになり、Rさんに「今度、一緒にお昼行きませんか?」と声を掛けた。Rさんも「いいですね、行きましょ!」と笑顔で応えてくれた。

私とRさんとライターさんで行った初めてのランチ。会社のオフィスと同じビルの中にあるイタリアンのお店に決める。注文したデミグラスソースがかかったオムライスも、たまごがトロトロで美味しく、仕事中ではなかなか話せないような趣味の話ができたり、終始和やかな雰囲気だった。

Rさんとライターさんに対し、「これからも一緒に働けたらいいな」と私はそう思っていた。