この春で会社を辞める。より正確に言うならば、契約期間満了による終了だ。
あともう1年、契約を更新する選択肢もあったが、更新を希望しない、と書面を提出したのが去年の秋。あともう1年一緒に仕事をしたかった、と何度も言ってくれる仲間にも恵まれていた。
仕事内容も自分に合っていて楽しかった。職場と家は近くて、歩いて20分ぐらい。有給休暇もあり、長期休暇も事前に調整すれば取れる。忙しくて体力的に辛い時もあるけど、合間に同僚と雑談する余裕もある。地方の水準で考えるなら、給料面も悪くはないと思う。
趣味で勉強している語学を仕事に生かす機会もあった。こんな条件だけ並べてみたら、正直、もう1年続ければ良かったかなと3mmぐらいは今でも思う。でも、辞めるという選択をした。
今の自分にとって良い条件でも、未来の私はそこにいなかったから。契約更新せず、落ちたら辞める覚悟で正職員の試験を受けた優秀な同僚も、職場を去ることになったと聞いた。
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この会社の面接を受ける時、私は当然、この会社で働きたい理由を伝えた。そんな私に面接官は「最大でも5年間の契約ですが、契約が終わったらどうする予定ですか」と聞いた。
期間が定められているから、それもまた、当然の質問だ。でも私は内心、5年後なんて未来のことは分からないと思った。結婚しているかもしれないし、子供もいるかもしれないとも思った。
その時はちょうど資格の勉強をしていたから、5年の間に資格をとって、その資格でまた別の仕事を見つけたいと面接官に答えた。結果的に、結婚もしてないし子供もいないし、途中体調を崩して3ヶ月ほど休んだりもして、資格も取れていない。その時は、全く想像もできなかった「未来」に、流れ着いた私が、今ここにいる。
契約は年度末までだが、残っていた有給休暇を使い、最終出勤日と同時に会社の近くに借りていたアパートを引き払い、近くの祖母の家に荷物を送った。
引っ越しして4日がたったある日。ふと思い立って、祖母の家の固定電話から実家にかけると、父が出た。仕事を辞め引っ越ししたことを伝えると父は、また次の目標を立てて頑張ればいいと言ってくれた。そして、こう付け加えた。「将来に有益な目標にしろよ」と。
受話器をおいた後、将来に有益って何か少し考えた。父が言いたかったことは、お金を稼ぐことに繋がる目標、ということだったのだろうか。確かに、お金は稼がないと。
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相変わらず今も、私は、未来の私が何をしているのか分からない。でも、今この瞬間やりたいことはある。
勉強がしたい。身につけたいことがある。知りたい、知らないといけないと思うことがたくさんある。勉強が本業である学生時代は、勉強したいことを常に探して、考えているような学生だったけど、社会人になって初めて明確に勉強したいと思うのはどうしてだろう。「あ、そうだ。私はいつも、人よりテンポが遅いところがあるんだった」と自分で納得した。
何が未来に有益になるかなんて分からないけど、有益にならないことなら分かる気がする。怠けたり、中途半端にやることがそうだ。30代の入り口も少しだけ見えてきて、今しかできないことをやらなきゃと思い、年齢制限があるワーキングホリデー制度を使って海外に行くことも一時考えたが、海外でも勉強できる環境なのかを第一に考えている自分に気づいた。そんなに勉強したいなら、お金を稼ぎながらも、一番勉強に集中できる今の環境で勉強しようと決めた。
会社員でもなく、学生でもなくて、肩書きは何もなくて心細いけど、未来の私は、過去の私、今を生きるこの私に向かって「今、勉強したいと思うその気持ちを大事にして頑張れ」と言うだろう。