私には、高校生の時からの親友がいる。
彼女と初めて喋ったのは高校3年生の時、通信制高校での出会いだった。
元々通っていたのは普通高校だったのだが、友人関係のトラブルが原因で心身を病み、通い続けるのが難しくなってしまっていた。

◎          ◎

高校2年生のある日、それまで仲良くしていた友人達から突然避けられるようになったのが始まりだった。何度も話し合い、手紙で気持ちを伝えるなどしたが上手くいかず、両親や先生にも知られるようになり状況はさらに悪化。陰口を言われながら、ひとりぼっちでお弁当を食べる学校生活は辛くてたまらなかった。耐えきれず、家に帰ると自分の部屋にこもって泣き明かす毎日だった。

それでも両親にこれ以上心配をかけるのが忍びなく、学校に通い続けていた。けれど、糸が切れたのか冬休みが終わり新学期が始まる頃、急に布団から起き上がれなくなった。どうしても体が動かなかった。

両親が学校に頼んでくれ、別室で補講を受けることでなんとか高校2年生の単位を取得することができた。
高校3年生になると同時に通信制高校に編入。
通信制高校の入学式は、今まで通っていた高校と違い、明らかに年上の人ばかり。20歳を超えている人も少なくないようだった。自宅学習が中心で、学校に通う日は少ないとはいえ、友達ができるか、クラスメートとうまくやっていけるか不安でたまらなかった。

◎          ◎

そんな時、一人の女の子に声をかけられた。
私と同年代くらいの彼女は、茶髪で見た目が少し派手な印象。地味な私は一瞬少し構えてしまったのだが、彼女の笑顔が優しかったため、私は彼女に笑顔を返すことができた。
同い年だということが分かり、盛り上がった私達はその場で連絡先を交換した。

取っていた授業が異なっていたこともあり、彼女と学校で会う機会は少なかったが、ラインで頻繁に連絡をとりあい、学校で会える日は昼食を一緒に食べたり、授業後に近くのイオンで買い物やお茶を楽しんだ。

「仲良くしてくれるのは最初だけかも」。友達から拒絶される経験をしたばかりの私は、彼女との友情が続くことを始めは信じられないでいた。
しかし、そんな不安をよそに彼女は、私と一緒にいるのが楽しいと言ってくれ、私のまとまらない話も相槌を打ちながら聞いてくれた。

◎          ◎

第一印象とは異なり、彼女は真面目で、自分の気持ちより他人を優先する優しい子だった。自分が我慢すれば良いと自分の気持ちを飲み込みストレスをためてしまうところなど、私とどこか似通ったタイプの彼女とは気が合い、私と彼女は、少しずつだが確実に距離を縮めていった。

信頼できる友人となった彼女との関係は、卒業後も途切れることはなかった。
お互い就職し、仕事も忙しくなると高校時代のように頻繁に会うことはできなくなったが、定期的に連絡を取り合い、一年に一度は直接会って話をした。どんなにたくさん話しても話は尽きず、彼女と過ごす時間はあっというまだった。

20歳を過ぎた頃の私たちの話題の中心は恋愛だった。
彼氏は自分のことをそんなに好きじゃないんじゃないかと、彼氏の気持ちを信じられないでいた私。彼氏の言動に自分を否定されるような違和感を持ちながら、もやもやする気持ちを彼氏に伝えられずにいた彼女。

職場の先輩を好きになり、遊ばれているだけとわかっていても、追いかけるのをやめられなかった私。既婚の職場の上司と関係を持ってしまい、良くないこととわかっていても、関係を断ち切れずにいた彼女。

◎          ◎

恋愛は楽しいことばかりではなく、思い悩んで辛いときも、他の友人には話すことをためらってしまうことも、彼女に対してなら本音を言うことができたし、彼女も私に対して何でも話し、相談してくれた。

私も彼女も自分の意見や、お互いを心配する気持ちは伝えても、決して相手自身を否定することはなかった。
「彼女ならどんな時でも味方でいてくれる」。何でも話せたのはそう信じられたからこそ。

ある時、私と彼女の間で奇跡的な偶然が起こった。
私と彼女に同時期に出来た新しい彼氏。お互いの彼氏の地元が、なんと町名まで同じだったのだ。

この事実がわかったとき、私と彼女は嬉しい偶然に、大いに盛り上がり、興奮し、それぞれの彼氏にも伝えた。彼氏達はその偶然に驚きながらも、むしろ私たちの喜びように対して驚いていたと思う。
「今度の彼との関係はきっと上手くいく」。私達は確信に近い気持ちでうなずき合った。

◎          ◎

予感は的中し、私のことを大事にしてくれる彼との交際は順調だった。紹介された彼の両親にも喜ばれ、とんとん拍子に婚約、付き合って一年で結婚した。
一方、私の入籍から一年後、友人も彼氏からプロポーズを受け結婚。
さらに翌年には彼女のお腹に新しい命が宿った。
親友は今、生後8か月の女の子のお母さん。
「毎日大変だけど、すごく幸せ」と笑う彼女は、わが子のことを慈しむ立派なお母さんとなっていた。

出会った頃の私たちは、お互い人間関係の躓きをかかえ、自分に自信がなかった。自分が幸せになれる未来など想像できなかった。
けれど、私たちは今「幸せだ」と心から言える。
成人して良きパートナーを得たこと、そしてなにより、親友と言える存在に出会えたからだ。
出会った頃とはお互い住まいも暮らしも様変わりした。けれど、彼女は一番の親友。それだけはこれからもずっと、変わることはない。