文章を書かねばならない。エッセイでも小説でもいい。おもしろい何かを。

不純な理由だけれど、彼との関係性を繋ぐために。
大学生の頃から片思いしている相手がいる。同じ文芸部員だった彼は、破天荒な行為をしては周りの信用を崩しているように見えた。他人に対して失礼なところがあり、私の友人は彼の事を「クズ」と呼んだ。
例えば、京都の鴨川でヌートリアを捕まえたり、文化祭では全身に墨を塗って裸体で練り歩いたり、兼部していた町づくりサークルでは借りて住んでいた一軒家に傷をつけ部全体の信用を損なわせたらしい。
褒められたことはしていないけれど、私にはそれが眩しく見えた。自分らしさを貫いているように見えてかっこよかった。たとえ、私自身が彼に「ブス」だとか「おもしろくない」と言われようと、憧れは止められない。

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一度だけ、彼に抱いてもらったことがある。大学を卒業してしばらくのことだ。

当時、私には恋人がいたのだが、その人とはセックスをまともにしたことがなかった。性的な行為に対して興味津々だった私は、愚痴を兼ねて片思いの彼へ電話をした。彼は、「俺とやってみるか」と冗談交じりに言った。冗談でも興味本位でもいいと思った私は期待を胸に彼に会うことにした。お互いに恋人がいる中で、行った行為だけれど、

私としては楽しい時間だった。しかし、彼はおもしろくなさそうだった。「お前、こういうの向いてないよ」と言われた。それから二年ほど会わなくなった。

もともと、共通の趣味や話題が少なく、連絡をしようにも彼に楽しんでもらえる気がしなかった。媚びへつらう気持ちに対して、自分自身でもおもしろくない人間だと感じていた。

一方で、恋人とは結婚の話が出てくるまで進展していた。恋人は、私が片思いしていてその人と体を重ねたことを知っている。懐が広く何でも話せる優しい人だった。
安心を求めるならば、恋人と結ばれるほうが幸せだろう。しかし、私は片思いの彼が忘れられなかった。
恋人のことも大好きであったが、それ以上に片思いをどうにかしたかった。思いを告げても相手にされないとはわかっている。それでも、もうどうしようもなくなっていた。
だから、恋人に別れを告げた。

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後日、片思いの彼へと久しぶりに連絡を取った。エッセイを書くからアドバイスが欲しい、などと言って。
思わぬことに、彼は直接会ってくれるという。自宅に誘われ、彼のテリトリーに入っていいぐらいには、認められているのかと期待してしまった。
しかし、期待した自分が馬鹿であった。

告白をして告げられたのは、彼にも好きな人がいること、セフレと恋人同然に過ごしていること、元カノとたまに遊んでいること。そして、やはり「お前はおもしろくない」ということだった。
言われた時には平気だったそれは、家へ帰って一人になってから苦しいものになった。彼を刺し殺してやりたいと思うほどに。おもしろくないと言われて、彼の周りの女の子達に負けた気がして悔しかった。友達としても見てもらえてないことが悲しかった。

でも彼は、「執筆仲間としてならいいよ」と言った。
私は、拙いながらも文章を書く。エッセイでも小説でもいい。書いていれば、関係性は続いてくれるのだ。
そして彼に、私がおもしろいと認めさせてやりたい欲が出てきた。せめて、執筆仲間としてでも同じ土俵に立ちたい。
彼のことが好きだけど憎い。好きだから悔しい。