好きだから告白したいと思った。好きだから一緒にいたいと心から願った。好きだからあなたと過ごせる日を夢見てた。
でもそれは夢物語で、現実は私の思いどおりになってはくれない。
私の好きな人には妻がいた。当然、妻がいる人とは恋人同士になることはできない。
だから、私は諦めるためにあの人に想いを伝えた。これで最後だから、と。そして恋愛感情を抱いてしまった以上、もうあの人のそばにはいられない。そう思って私はあの人の元を離れる決心をした。
でも私が別れを告げる前に、あの人はこう言った。
「俺、ポリアモリーなんだよね」
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ポリアモリーとは複数愛と呼ばれる。パートナーを一人に決めない人だ。
一夫一婦制しか頭の中になかった私はポリアモリーという言葉が脳内に全く浸透しなかった。
彼は私を好きだという。しかし、好きな人は他にもいてパートナーが複数いるという。でも私と付き合いたい気持ちもあるという。
そのことを言われたとき「どういうことだ???」と、私はパニックになってしまった。
私は失恋をしたわけではない。しかし、両想いだ!と喜べる立場でもない。
私にとって相手はたった一人の愛するべき人。でも相手にとっての私は特別とは言えども複数の中の一人に過ぎない。
「そんなの悲しいよ。私は一番愛されたい。私だけを愛してほしい」
心のなかでそう思ってしまった。そしていつの間にか号泣してしまった。
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私が一番愛されることはない。そして愛される自信もない。
私はパートナーたちがどんな人なのかも分からない。しかしあの人は妻には全て了承を得ていると言っている。妻は全てを知っているのだ。
でも、そうだとしても妻がいる人と付き合うのは浮気になる。了承しているのが事実だという保証はどこにもない。
けれど、本当に確かなことは“あの人が本当に私を好きである”ということだ。
真剣に私と向き合ってくれた。そして自分の心を打ち明けてくれた。それは私に対して想いがあるからだ。嘘をつきたくないと思ったから、心の内を話してくれたのだ。
でも私は「それって浮気と同じ!私はそんなの嫌だ!」と感情的になってしまった。
浮気したいという気持ちで言っていないあの人からしたら、とんだ暴言を浴びせられたようなものだ。
あの人は私と一緒にいたいから、本当の想いを話しただけなのに。
私はあの人の好意をめった刺しにしてしまった。
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感情的になった私が落ち着いたのはポリアモリーについて調べてからだった。
「複数人のうちの一人は嫌!一番愛されたい!愛してほしい!」と思う私の心は一見誰もが共感するような考えのように思えるが、これは人が一人を愛することを前提に作られているものだ。
人を一人しか愛してはいけない、という世界の中であの人はどれだけ孤独を感じただろうか。自分はおかしいと、思ってしまうこともあったのではないか。人に理解してもらえないことももしかしたらあったのかもしれない。
私がした拒絶はあの人にどれほどの傷を与えたのだろう。
そもそも人を一人しか愛してはいけないなんて誰が決めたのだろうか。
一夫一婦の中で生まれたからこそ、一人を愛することが当たり前と私達が解釈してしまっただけで、これが当たり前ではなければ複数人を愛することも認められていただろうに。
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人を好きになることは素晴らしいことだと称賛されるけれど、複数人を愛することは拒絶され非難されることがある。それはなんておかしなことなのだろう。
私はあの人を愛している。あの人も私を愛している。一人も複数人も関係ない。
あの人は私を受け入れてくれた。その上で自分のことを話してくれたのだ。
私が受け入れればあの人は承諾するだろう。
でもやっぱり頭のなかでは他のパートナーたちがチラつくことがある。けれど過度な独占欲は身を滅ぼすだけだ。
「私だけを愛してほしい。一番がいい」と思う呪いがとけるのは一体いつになるのだろうか。
好きだから受け入れたい。好きだからこそ、もっと私を愛してほしい。
そんな気持ちが行ったり来たりする今日この頃。
でもこれだけは言える。今の私はとても幸せである、と。