東京の女の子は、みんな細かった。彼氏に頬がまるまるしていると言われて落ち込んだ。さまざまな要因があって、大学生の私は普通にご飯を食べることができなくなった。

無謀な断食ダイエットとその反動のむちゃ食い。食べ始めると、脳は食べることだけに集中し、完全にコントロールを失った。それはどんどんエスカレートして、食べ物と体重について考えることに一日の大半を費やすようになった。

今考えると明らかに異常なのだが、当時は意志が弱いだけと思っていた。そのため病院には行っていないが、きっと摂食障害だったと思う。

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それが1年くらい続いたある日、この食欲と体重に支配された生活を終わらせようと決心した。

何度ももうやめたいと思っていたが、いつも挫折した。あと何kg痩せたら終わりにしようと思ってしまい、ダイエットを諦めきれずにいたからだ(ちなみに決して太っていなかったし、むしろ痩せていた)。

しかし、今回は本気だ。就職活動の真っ只中で、将来のことが心配になったからである。食生活も心も滅茶苦茶なまま内定はもらえない気がするし、きっと働くこともできない。いつか子どもが欲しくなっても、生理がちゃんとこないかもしれない。食生活のせいかは分からないが、当時生理はほぼこなかった。

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絶対に健康的な食生活に戻りたいという意志のもと、3つのことを決めた。

①細くないと可愛くないという考えを改める、②体重計は捨てる、③自分で作ったご飯ならたくさん食べてもいい、の3つである。これらを決めてから、毎日キッチンに立った。

今までは食べたい気持ちが限界を超えると、スーパーやコンビニで買ったお弁当や菓子パンなどを胃に詰め込んでいた。これが手づくりの野菜スープや肉料理に変わった。

甘いものが食べたいときは、自分でクッキーやアップルパイを作った。自作のお菓子が決してカロリーが低いわけではないのだが、たくさん食べてしまったあとの虚無感は、今までよりいくらかマシだった。

毎日料理をしていると、そのうちにどうしたら健康的かつ満足感の得られるものを作れるか考えるようになった。

白米をスープに入れてかさを増やしたり、大根や白菜などの野菜をたくさん使ったりした。大きなおにぎりを作って学校に持っていくこともあった。太ったらどうしようと不安になり、苦しくなることもあったが、自分で決めたルールだから大丈夫だと言い聞かせ続けた。

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その後、半年ぶりくらいに実家で体重計に乗ってみた。作ったものを好きなだけ食べていたから、体重がものすごく増えているに違いないと覚悟していた。

しかし、驚いたことに1kg程度しか増えていなかった。食べている量は明らかに今の生活のほうが多いのだ。人間の体は不思議だと思った。

これをきっかけに、食べることへの不安は徐々に解消されていった。大学を卒業する頃には、体重に支配された生活はほぼ終わっていた。ごく普通に3食食べることができるようになったし、楽しく外食に行けるようにもなった。お菓子を少しだけ食べて満足することもできた。

キッチンは私の食べることへの罪悪感と執着心を和らげてくれた場所である。