もし今、誰かに会えるなら、声優の「小原好美(こはらこのみ)」さんに会いたい。
なぜならば一年前まで、私は声優を目指しており、小原さん(通称ここちゃん)と一緒に仕事をするのが夢だったからだ。
小原好美さんは新人声優さんでありながら、プリキュアやアニメのメインキャストをたくさん演じられている人気声優さんだ。特徴は子供のような、とにかくかわいい声で、子供向けアニメにぴったりな声質を持っている。また、他の一般的な声優さんとは少し異なり、元々女優活動を何年かやっていて、二十歳を過ぎてから声優に転身している。

若年化が進む声優業界では、二十歳を過ぎてからのデビューは非常に困難であるのにもかかわらず、勇気を出して方向転換したところがとても素敵に思えた。

小原さんの普通に話しているような自然な演技が、とてもかっこよい

もう一つ、小原さんにはある特徴がある。あくまでも私の見解ではあるが、小原さんは大げさなアニメ的な演技ではなく、普通に話しているような自然な演技をする。いかにもオーソドックスな感じのアニメ声をあえてしない方向性が、私にはとてもかっこよく、共感できた。
なぜならば実は私も映画のワークショップに通っていたとき、日常に近い自然な演技を目標としていたからだ。そこで私はよく「演技が大げさだよ!」と監督に怒られながら、自然な演技を目指してレッスンを受けていた。
舞台演技では観客が遠いため、大げさな表情や動作をあえて用いる必要があり、アニメを中心とした声優の演技も、映像に負けないために分かりやすく大げさに表現をする。同じお芝居でもフィールドによって、芝居の手法が全く違うので、色んなフィールドを試すと、表現の幅がぐんと広がるのだと思う。だから、色んな表現方法を試した結果生まれた小原さんの自然体な演技と、私の演技経験が重なって、小原さんに親近感が湧いた。

私の声優への道は行動力がなく、始める前に夢を諦めてしまった

ここまで声優オタクとして、小原さんの魅力を長々と書いてきたが、自分の声優への道はどうだったかと言うと、全くダメだった。
なぜならば私には養成所に通うような行動力も、先が見えない不安定な職種を選ぶ勇気もなかったから、始める前に夢を諦めてしまったからだ。

頭では養成所の候補や声優になる人生設計を描いていたが、行動に移さなかったというか、移せなかった。養成所の説明会や体験会には参加してどの養成所の雰囲気が自分に合っているか探したけれど、通うまでには至らなかった。
ネットでたくさんの「声優になるには」サイトをひたすら読んで、一クール(3か月)で何本アニメの仕事をもらえたら食べていけるのか計算したけど、生きていけないかもしれないという恐怖が夢や勇気を上回った。
ネットやYouTubeで滑舌や鼻濁音について学び、大きな声を出せる大学の音楽ルームで一人練習をしていたけれど、ただ練習していただけ。「声優目指してました」なんて簡単に言えないぐらい、壊滅的な行動力のなさである。

親に自分の夢を伝えていない私は、声優を目指す以前の問題が未解決

さらには、親に「声優になりたい」と言えなかったことが私を夢から遠ざけてしまった。
よく養成所の説明会で、とりあえず親に声優になりたいと打ち明けて承諾を得なさいと聞く。そもそも未成年では親の許可なしに養成所に通えないケースが多いし、親にさえ説得できなければ声優になんてなれるわけがないと言われた。
しかし、私はまたもや勇気がなく、小心者で、親に自分の夢を全く伝えていなかった。つまり、養成所に通うとか、声優を目指すとか、それ以前の問題を解決できていなかったのだ。

一度だけ、母と外食をしているときに、「実はお芝居の道に進みたくて……」とぼそぼそ声で話したことがあったが、「は?そんな仕事で生きていけるわけないでしょ!」といつも穏やかな母に険しい顔でぴしゃりと言い返された。
それ以来、怒られると分かっているから、自分の将来に対する正直な気持ちが伝えられなくなってしまった。今考えても情けなさ過ぎて、もはや笑い話にしたいぐらいだ。

同業者として巡り会えなくても、ファンとしてなら会いに行ける

声優になる夢にさよならを言った後、今の私は就活準備中のただのフリーターとなった。プロの声優にはなれないが、有休や代休を使い、会社員役者・声優としてたまに舞台、朗読、映像作品、YouTubeのナレーションなどで活動したいと思っている。
だからファンとしてしか、小原さんに会いに行くことはできない。でもたとえ声優になっていたとしても、小原さんと仕事を共にできるレベルになれていたかどうかは分からないし、そもそも声優になれなかった可能性の方が99.99999…%だっただろう。
それでも、たまに小原さんのインスタグラムや出演されているアニメ作品を見ると、「もう一生ここちゃんとは一緒にお仕事できないんだな」と悲しみに襲われる。
特にラジオで、現場であった裏話や今頑張っていることを聴くと、夢を諦めるという自分の判断が本当に正しかったのか、分からなくなる。涙が止まらなくなるときだってある。
でも。ありきたりの言葉だが、時間が心の傷を癒してくれると信じている。そして、もう少し気持ちが落ち着いたら、イベントでここちゃんに直接会いに行きたい。

同業者として巡り会うことはできなかったが、ファンとしてなら、私はここちゃんに会いに行ける。そのときはここちゃんにありったけの愛を伝えたい。
「あなたが好きで好きで今も一緒に仕事ができたらいいのにと悔しくなるほど、あなたが大好きです」