「文武両道で人気者」。中学までの私はそう称するにふさわしかった。こんな自画自賛も許してほしい、この数行後にしっかり挫折するから。

周りからもそう褒められることが多かったし、自分でもそう思っていた。というより、あの時の私はそう思われたくて仕方がなくて、そう思われるような身の振り方を徹底していたと思う。
「文武両道」については努力あるのみ。「人気者」はその人にとって耳障りがいいだろうなという言葉を選ぶようにすれば、まず嫌われることはない。それを積み重ねていけば私に好意的な人は増える。自分の本心とか言いたいこととかは別にどうでもよかった。「愛されたい」っていうのが何より大切な本心だったから、他の気持ちなんて些細なものだ。

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中学を卒業し、高校でもこれまで通り「文武両道で人気者」であろうとした私は、すでに上に書いた通り入学早々、大きめの挫折を経験する。

入試を経て自分と同じくらいの学力の子たちが集められた高校では、私の「勉強」というアイデンティティは消滅し、そして何よりも初めに所属したグループの子達から拒絶を受けたのがキツかった。私は「人気者」でいなくちゃいけないのに。それまで自分の「価値」で「存在意義」だと思って積みあげてきたものが一瞬にして崩れ去った。いびつなまでに高めていた自尊心が地面に叩き落とされて、私はもう学校に通えないかもしれないと思った。

彼女は出席番号順で私の左隣に座っていた。入学式の日に何となく会話して、まあまあよく話すようになっていた。何気なく仲良くなった彼女は、徐々に私の中で異端な存在になっていった。
彼女は思っていることを包み隠さずにそのまま言う。自己紹介の時、好きな音楽や食べ物を言う流れで「従兄弟が好きです(尊敬しているらしい)」と言って周りを驚かせていた。「変わってるね」と言われつつ、彼女は誰からも好かれていた。
羨ましいなと思った。彼女には自分をそのまま出せる強さがある。きっと私がこれまで「こんなこと言ったら変に思われるかな」と胸のうちで潰してきたことも、彼女だったら「これも自分」だと認めることが出来るんだろう。だから人に好かれる。

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正反対な彼女を見て、やっと気付いた。私が入学早々グループから浮いたのなんて当然だ。

聞こえが良いことだけを言って、他人の好意をコントロールしている気になっている人間なんて好かれるわけない。だけど、もしも彼女がいなかったら、私はそんなことに気付けないまま一生腐っていたかもしれない。

それから私と彼女はどんどん仲良くなっていった。「文武両道で人気者」なんてレッテルに縋るのを、自分の価値を求めるのを辞めたらとても楽になった。自分を隠さなければ気の合う子が周りに集まるようになった。自分を「人気者」に見せるための友達じゃなくて、本当に友達だと胸を張って言える存在が出来た。

出会ってからもう五年以上経つけど、彼女は相変わらず面白い。この間は急に思い立って一人で国外に飛び立っていった。今度は一緒に行こうと約束をした。

自分の思うままに生きる彼女は、とても格好いい。