スピッツの「春の歌」を爽快に聞きながら出勤したある日のこと。二〇二三年の春がやっと顔を出し始めたと肌で感じられたある午前中、上司が私を呼び出して言うのだ。

「来年からね、○○さんが異動になるの。それでね、新人さんが二人来ることになったから」
○○さんというのは、この一年間私がどれだけ努力をしてもあがいても、あまり仲良くなりきれなかった同期だった。

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ちょっと仲良くなったり、お互いに忙しくてイライラし口も利かない日々もあったり、助け合ったり、涙を拭きあったり、色々なことがあった彼女だったけれど、来年から異動か……。となると、新人さんの教育係は私と一人だけの上司しかやる人がいない。その上司も施設長だから忙しいし、きっとあまり新人さん教育に関与できないのだろう。

「四月から忙しくなるけどさ。多分○○さんよりはコミュニケーションも取りやすくなると思うし、頑張っていこう」。

そう。この同期は本当にコミュニケーションがとりづらい、難しい人だったのだ。なんどいろいろな角度から試してみても、やはり人を変えることは簡単にできない。そんな諦めを感じていた矢先の異動という情報は、少しだけ心を軽くした。もちろんここだけの話だ。

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この頃私は、四月からやってくる二人の新人さんにどのように仕事を教えていこうか、日々考えている。そして仕事以外のことで何を教えていこうかも考えている。
思えば入社したての頃、私は同期との相性に日々悩み、上司にたくさん相談に乗ってもらったのだった。

「この世にはね、だいたい)三十四パーセントくらい合わない人いるよ(笑)」
そう爽快に言う彼女の横顔は、さすが社会人四年目の貫禄があった。相談を持ち掛けた当初の私はまだひよっこで、そんなことを笑いながら言える彼女が羨ましかった。

だけど、まだ一年しかたっていないけれど、私がもし先輩になったら、そして後輩がそのような悩みを持ち掛けてきたら、今ならどんなことも親身に寄り添って話を聞ける自信がある。そして、私と同じようなことで悩んでいたら、そんなに考えすぎなくても、相手はだれもあなたにいい意味でも興味がないよと教えてあげたいのだ。

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「二人とも、面接の感じだととても仕事を頑張るタイプ。ちゃきちゃき言われたことをどんどんこなしてくれるようなタイプだから、あなたも今抱えている仕事たくさん二人に卸してね」。

上司は新人さん二人のことをそう教えてくれた。
仕事を頑張るタイプ……か。きっと今とはまた違った新しい風が吹く春が来る。今までの慣習も、また少し変わってくる。少しずつ新しいものが取り入れられたり、色々な着眼点からの意見をくれたり、どんどんこの会社も変わっていくのだ。

私たちもそれを取り入れていかなくてはいけない。新しい意見をたくさん聞いて、よりよい会社にしていきたいなと思う。

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それと、私は後輩に伝えたいことがある。
それは、「頑張りすぎなくていい」ということだ。最初から一〇〇パーセント出し切ると、結局疲れていく一方なのだ。車だってずっとエンジンを入れていたら壊れるし、パソコンだってシャットダウンしないと壊れやすくなる。人間だって同じことが言えるのだと一年を通して思った。

「頑張らずに、頑張ってね。頑張らないことを頑張ってね」
きっとそう伝えたとしても、入社したての私がそうだったように、彼女たちにもまだ難しいことかもしれない。だけど、少しずつでいいのだ。少しずつ、今日会社に来られた自分をほめながら、一年目は言われたことだけを着々とやっていればいいのだと伝えたい。 
私がこの一年を通して得た知見。それを少しずつ、春からくる後輩に教えていけたらいいなと思っている。