不思議なもので、生きていると、絶妙なバランス感覚の持ち主に出会うことがある。
大学生の頃、仲のいい友人がいた。彼女は、自他ともに認める、忙しいのが好きな人だ。
「ねぇ、いつ寝てるの?」
思わずそう聞きたくなるほど、スケジュールは真っ黒。授業にサークルに、バイトは掛け持ちで、と、あちこちに出没していた。

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その勢いは、4年生になっても変わらなかった。たいていの学生なら、勉強に実習に就職活動にと、やるべきことで精一杯になるところだが、彼女は違った。やるべきことはきちんとやった。優秀だった。そして、どんなに忙しくても、自分の好きなことも、諦めなかった。

印象的なできごとがある。4年生の夏のことだ。

「ねぇ、遊びに行かない?」
彼女に誘われ、地元の美術館で開かれるマルシェに、共通の友人と3人で出かけた。
いいお天気の中、会場の庭にビニールシート(彼女の車に普段から積んであるらしい)を広げて、気分はピクニックだ。
「人、いっぱいいるね~」
ピザをかじり、景色を眺めながら、他愛ない話をしていた、その時だった。
「こんにちは」
彼女が誰かに話しかけた。
よく見ると、幼稚園生くらいの子だった。親子で来ていたが、歩き回っているうちに、私たちのいた場所にたどり着いたようだ。迷子というほどでもなかったが、私たちは、しばらく彼と一緒にいることにした。
「それ、何?」
彼女が、彼の手にあった何かに気づいた。彼がマルシェの中で、似顔絵を描いてもらったものだそうだ。
「いいなあ」
彼女は、楽しそうだった。
その様子を見ていたら、私たちもすっかり楽しくなった。

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別れ際、似顔絵をカメラに向けた彼と、2ショットを撮らせてもらったと喜んでいた。彼女は、人と話すことが好きなのだ。特に、小さい子との出会いは格別らしく、どんな状況でもすぐ仲良くなってしまう。目の前の相手に興味を持って、全力でその時を楽しんでいる。すごい能力だ。
彼女のすごさは、それだけではなかった。
「この後、ボルダリングに行かなきゃ」
マルシェからの帰り、車の中でチョコミントアイスを食べながら、そう言ったのだ。さんざん食べて、歩いて、楽しんだ後だ。一瞬私の聞き間違いかと思ったが、彼女は本気だった。こうなることをわかっていて、真剣に、この後壁を登ると言う。もはや人間離れした体力だ。
「へえ」
驚きすぎて、その後のことは覚えていない。気づいた時には、送ってもらって私の家にたどり着いていた。
「じゃあね」
家の前で別れると、彼女は、大好きなぬいぐるみをたくさん乗せた車で、颯爽と昼下がりの街に消えて行った。

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世の中には、涼しい顔をして、人の3倍くらい密度の高い、濃いめの人生を送っている人が、本当にいるのだ。そう思ったできごとだった。
ちなみに、彼女は大学卒業後、地元に帰った。子どもの成長に関わる仕事に就いて、毎日楽しくしているという。遅くまで仕事をしているのだろうに、休みの日には、旅行やアウトドアを満喫している。相変わらず、予定はパンパンのようだ。それでいて、大変そうな様子はみじんも見せない。しかし、周りには細やかな気遣いをし、私や友人とのコミュニケーションもまめだ。やはり、同じ時間の中を生きているとはにわかに信じがたい、想像を超えたバランス感覚だ。
最近では、仕事が面白くなってきたらしく、専門的に学びたいと、さらに進学をしたと言っていた。
いったい、頭の中は、どうなっているのだろう。
彼女は、どこまで行くのだろう。そう考えただけで、パワーを分けてもらえる。卒業から何年経っても、誇りに思える友人だ。走り続ける道をもう少しだけ、一緒にのぞかせてもらおうかな。