中学生の修学旅行。九州の学校はだいたい関西エリアを旅行するのだが、例に漏れず私の代の修学旅行も、京都・奈良・大阪を目的として計画された。しかしどこの学校もそうだと思うが、ここ行きたい!なんていう学生(もとい保護者)の希望は聞かれぬまま、学校の一存や伝統で修学旅行プランは決定される。そして決定された計画を拝見して「異議がなければこの計画で修学旅行を実行いたします」と、修学旅行は決まっていく。
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そうして出発した中学の修学旅行。そこで私は二種類の幸運な出来事を体験する。
当時、私は某アイドルグループのリーダーをめちゃくちゃに推していた。しかし超田舎の中学生だったため、はっきりとした推し活は行わず、関連のテレビや雑誌を密かに楽しむ程度だった。
京都についた一行は、とにもかくにも旅館に向かった。京都では有名な旅館らしいが、何しろ九州から出てきてるもんで、旅館の知名度なぞ誰も知らない。しかも少人数クラスだったために、綺麗で大きな本館ではなく、年季の入った小さな別館に通された。それ故、クラスの全員がさほどありがたみを感じず、旅館に足を踏み入れたが、私だけは違った。なんとなく見覚えがあるのだ。私にとっては初めての京都だし、そういえば昔一度来たことがある、なんて忘れていた思い出というわけでは決してない。しかし見たことがある。なんだっけ、全然思い出せない。
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そんな不思議なデジャヴを感じつつ、修学旅行を満喫していた私は、三日目の自由行動で一つ目の幸運な出来事に出くわす。
清水寺に17時に集合というルールをすっかり忘れていた班長に、担任から電話がかかってきた。17時05分、その瞬間私たちは京都水族館にいた。完全に遅刻。慌てて京都水族館を出ると、水族館の入口に舞妓さんがいたのだ。これが一つ目の幸運。実は、修学旅行に来る前、班別自由行動の計画をしていたときに「舞妓さんに会いたいね」と話していた。しかし舞妓さんが普段どこにいつ出現するかわからない私たちにとって、その可能性はほぼゼロに近かった。会えたのだ。集合時間を忘れて遅れて行ったおかげで、会えないと思っていた舞妓さんに会えてしまったのだ。もちろん代償としてとても叱られたけど。
そしてもう一つの幸運は、察しの通り、旅館。やはりずっと、なんか見たことあるような気がして心残りだった旅館の正体が明らかになったのは、修学旅行から帰ってきた自宅だった。予感がしていた。そんな気がしていた。でも違うような気もしていた。だから私はある雑誌を引っ張り出してきて、自分の推しの特集ページを開いた。
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「あった!!」
予感は見事的中。私たちが泊まったのは、当時私が好きだった推しが若い頃に下宿していた旅館だったのだ。私は嬉しさと驚きとトキメキで感激した。
自ら予約して宿泊したのならここまでの感動はなかった。学校の一存で決めた宿泊先がたまたまそこだったという偶然性が嬉しくて、私は今でもこの奇跡を引きずっている。あれを超える幸運な出来事にはそうそう出会えないだろう。
推しの聖地と舞妓さん。この二つの幸運に巡り合えた中学の修学旅行を、私はきっと死ぬまで忘れない。