実家での料理は、ほとんど母の担当だった。
かといって父が料理できないわけではない。一人暮らしをしていたこともあるし、一通りはできるのだと思う。

なので、父が台所に立つのもたまに目にしていた。「父の料理といえば」で思い浮かぶのは2つ。スフレオムレツとフレンチトーストである。こうして書くとなんだかおしゃれなラインナップ。そしてどちらも卵料理……フレンチトーストを卵料理とするかは諸説あるけれど。

◎          ◎

スフレオムレツを作ってくれたのは、私の物心がギリギリついたかどうかくらいのときじゃなかっただろうか。だからあの「事件」のことは覚えているし、父にとってはショックな出来事だったと思う。
スフレオムレツとはメレンゲを使って作るオムレツのことで、シュワシュワととろけていく食感が特徴的だ。普通のオムレツよりも手間がかかるし、難易度も高いのだろう。それを鑑みるに、やっぱり父は料理ができるのだと思う。能ある鷹はなんとやら……ということだろうか。

当時の私はスフレオムレツ未経験。父は「スフレオムレツとはこういうものだぞ」と教えるとともに、私に喜んでもらおうと腕をふるって作ってくれたに違いない。

しかし、私はそれを美味しいと思えなかったのである。

はっきりと「美味しくない」と言ったのかもしれないし、そうでなくても一口から先に進めなかったので答えは明白だ。
いつものオムレツだと思ったのに、食感がまるで違う。そしてなんだか変なにおいがした。

後者の理由は謎だが、もしかすると焦げ目の部分だったのかも。だとしてもプレーンオムレツにはあまりない要素なので「あれ?」となったのだろう。小さい頃は特に、未知のものを毛嫌いする傾向があったから。
幼心に、申し訳ない気持ちはあった。けれど無理して食べるという気遣いまでは持ち合わせてない。メレンゲでぷわぷわの大きなスフレオムレツとは反対に、私と父の心はしゅるしゅるとしぼんでいくのだった。

あれ以降、父がスフレオムレツを作ることは一度もないし、私も外食を含めスフレオムレツというものを一度も食べていない。

◎          ◎

一方、フレンチトーストは今も定期的に作っているようだ。

「ようだ」というのは、みんなに振る舞うのではなく休日の朝に自分用として作っていることがほとんどだからである。でもこれも、朝食はチーズを乗せたトーストと……とこだわりが強い私を配慮してくれていたのかもしれない。確か断ったこともあるし(酷い)。

父との間には思春期辺りから今に至るまで若干の距離感が存在しているのだが、料理に関していうともっと前からすれ違いが起きていたらしい。

そしてスフレオムレツはまだしもフレンチトーストは私の好物なのに、トーストの気持ちでいるからと断っちゃうし。素直に食べさせてもらえばよかったのに、フレンチトーストの気持ちを準備していなかったが故にそれができなかったのだ。

結婚をして家を離れた今になって、父の作ったフレンチトーストが食べたくなっている。今度帰省したときに、勇気を出して頼んでみようか。
スフレオムレツも気になるが、それは他で食べてみて克服できているかどうかを確かめてからにしたほうが良いだろう。お互いにいたたまれなくなるのはもう嫌だから。