このテーマ、書ける。と思ったのに、全然書く手が進まなかった。締め切り当日、このテーマは諦めた……つもりだった。その日、「キッチン革命」というドラマがやっていた。
主人公は女性初の一級建築士であり、戦後のキッチンに革命を起こすという内容。
男女平等を願う私には、様々な言葉が胸に刺さった。
主人公のように大きな革命は起こせない。でも筆を執ることで自分の中で革命を起こすことはできる……かもしれない。

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トントントン。
朝が苦手な私はいつもリビングで母の料理する音を聞きながら椅子に包まって二度寝。
「早く起きなさい」の母からの声で、なんとか椅子から這い上がって机につけば、既に準備された朝ご飯とお弁当。
それが当たり前で疑わなかった私の生活スタンダード。

我が家には、「夜ご飯は家族全員で食べる」という謎ルールがあった。
両親は共働きかつ夜勤ありというハードワーカーなうえに、兄も私も放課後は週7で習い事。
夜ご飯の時間は、両親が夜勤の日は18時、誰かの帰宅が遅い日は、22時なんて事もざらだった。

そんな生活でも、ファストフードやコンビニご飯には縁がなかった。
ほぼ母の手作りで、スーパーのお惣菜の日もあったが、その時でも1~2品は必ず付け足してくれていた。
小さい頃のお弁当はキャラ弁だったし、おやつまでもが手作りだった。

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この生活は高校卒業まで続き、大学入学と同時に私はひとり暮らしを始めた。

ひとり暮らし後、初めて実家に帰った時、キッチンに立って1人もくもくと食事の準備をする母。
それを見ても手伝いもせず、「ご飯何?」と聞く、兄や父。
母は私にだけ「お皿出して」と声を掛ける。

「なんで?なんで私だけが?」そう母に問うと「当たり前でしょ、あなた女の子だもの」と……。
そうだった。母は、我が家は、そういう家庭だった。

その後、兄が結婚した後に、母は私にぼそっとつぶやいた。
「義姉が家事をきっちり半分ずつ役割分担している。兄がキッチンに立って料理しているのがかわいそうだ」と。
義姉と兄は同じ職種だ。つまり、共働きで、なおかつ兄の方が勤務地は家から近い。

なーにが、かわいそうだ。義姉が料理しなくてもいいじゃないか。
兄は今までろくに料理もせず、キッチンに入りもしなかったじゃないか。
結婚した今じゃなければ、いつキッチンに立つんだ。愛する妻のため子供のためキッチンに立て。
それが嫌なら稼いで宅配ピザでもなんでも食べれば良いじゃないか、と私は思った。

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私の結婚する相手は、男女平等の考えを持っている人、が第一条件だった。
ミラクルが起こって、私も結婚できた。ちゃんと男女平等の考えがある優しい旦那様だ。

なのに結婚後の私は、新婚早々張り切ってキッチンに立ち続けた。
料理が好きなのもあったし、ずっと自炊していたから一人分も二人分も変わらないと思っていた。

旦那様に「俺も一緒にキッチンに立ちたい」と訴えられたことがある。
そうして旦那様がキッチンに立ってくれることもあった。
ただなんとなくソワソワして落ち着かなかった。
申し訳ない気持ちになってしまう。

申し訳ない気持ちになる自分が嫌だった。
私は母の娘なんだ、と強く感じてしまうから。

でも結局、私は仕事がどんなに忙しくても、キッチンに立ち続けた。
朝ご飯、お弁当、夜ご飯、3食なるべくバランス良くを意識しながら作った。
コンビニ飯や外食が続くと気が滅入るうえに、栄養バランスが気になるのもあった。
忙しい時こそ栄養のあるものを食べないと身体がもたない、と信じて疑わなかった。

それが仇となり、病気を患った。
病気を患った私はご飯を食べられない時期もあったが、旦那様には食べてもらおうと必死でキッチンに立ち続けた。

でもついに、キッチンに立つどころかベッドから起き上がれなくなった。
泣いて「ごめんね」と謝った。
旦那様は一言。
「生きてくれてるだけでいいんだよ」