5年前、私は結婚を機に実家を出て今の旦那と結婚し、二人暮らしを始めた。実家暮らしの頃は、家に帰ると食事が用意されている生活が当たり前だった。
二人暮らしを始めたら、毎日の食事の支度は当然自分たちでやらなくてはいけない。旦那も実家暮らしで自炊経験はなし。仕事が忙しく、帰宅も私より遅いことが多かったため、食事の支度は必然的に私の役割となった。
私は決して料理をすることが嫌いではなった。実家暮らしの頃も、休日は母が料理をするのを手伝ったり、時々クッキーやパウンドケーキなどのお菓子も作っていた。
旦那と恋人時代、デートでピクニックやお花見に行くとお弁当を手作りしたり、手料理をふるまったこともある。そのため私に料理に対する拒否感や苦手意識はなかった。

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しかし、二人暮らしを始め、私が作る料理は失敗の連続だった。
野菜炒めを作ると野菜の水分で水っぽくなり、味がぼやけてしまう。
煮物をすると大根やじゃがいもなどの根菜類がまだ硬く、噛み応えのありすぎる食感に。味も十分に染みていない。
ご飯を炊くことでさえ、水加減を誤り芯が残る確率が5割を超えていた。
麺類は特にひどく、ゆで具合が分からず、うどんやパスタを腰が全くないでろでろの状態にしてしまったことが何度もある。麺類、中でも蕎麦は旦那の好物なのだが、腰のあるおいしい蕎麦をゆでられるようになるまでには年単位の時間がかかった。

思い返せば、実家で食事の支度を手伝っていた頃、私は母の指示通りにやっていただけ。味付けや最後の仕上げは母が行っていた。分量や手順を守ればできあがるお菓子作りは、目分量や微妙な調整が必要な料理とは必要なスキルが別物だった。
さらに発覚した衝撃の事実。デートの時、お弁当や手料理をふるまうと旦那はいつもおいしいと言って食べてくれていたのだが、実は口に合わない時も少なくなく、彼女である私を傷つけまいと美味しい振りをしていたようだ。

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対して結婚してから旦那は、私の作る料理に対し、美味しい、美味しくないストレートに伝えるようになった。私も上達のためには正直に言ってくれる方がいいと頼んだのだが、頑張って作った料理を美味しくないと言われるとどうしても落ち込み、手間をかけて作った餃子を「パサついていて、労力に見合ったおいしさがない」と酷評された時は心が大きく傷つき、旦那と喧嘩をした。

それでも彼は失敗した料理も残さず全部食べてくれたし、美味しくできた時は「美味しい。また作ってよ」といってくれた。回数を重ね、失敗することが減っていくと「初めに比べて大分料理がおいしくなったよね」と褒めてくれた。旦那の言葉に励まされ、私はやる気を出して日々料理に励んだ。

旦那の味覚に合うよう工夫し、初めて作り上げた「私の味」の料理は麻婆豆腐だった。
旦那の実家では麻婆豆腐は市販の素を使っていたそうだが、旦那は市販の味が好きではなかったようだ。「美味しい麻婆豆腐を作って欲しい」と要望を受け、私は試行錯誤した。ネットのレシピを参考にしつつ、特別な調味料は使わず味噌や砂糖、醤油、鶏がらスープなどの調味料を配合し、旦那好みの味に作り上げた。
「これは美味しい!俺の好みの味だ」旦那の賞賛の声が聞けたときは苦労が報われた喜びを感じた。

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旦那の一番好きな料理であるハンバーグ。
こちらは麻婆豆腐とは逆に、ハンバーグヘルパーという市販の素を使ったものが美味しくてお気に入りと聞いていた。旦那の勧めで使ってみると、確かにひき肉と混ぜるだけで味が決まる、便利で簡単、味も申し分もないという素晴らしいものだった。
けれど、旦那の大好物だからこそ市販の素に頼らず自分で一から作りたかった。
「市販の素に頼らず美味しいハンバーグを自力で作りたい!」
旦那に宣言して私の味のハンバーグを作ることを始めた。
「肉々しいハンバーグが食べたい」という旦那の要望を受け、つなぎなしで肉と玉ねぎのみを使用したり、パサつきが気になり少量の卵やマヨネーズを入れてみたり、刻んだ牛脂を入れて混ぜてみたり。旦那は私の作る様々なハンバーグに対して、「十分おいしいよ」「前よりよくなった」と言いつつ、「まだ改良の余地がある」という。ハンバーグヘルパーを使ったものと比べると60点だそうだ。
「私の味」のハンバーグつくりは道半ばだ。

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私が料理をすることが苦ではないのは、元々の性分であるのだろう。とはいえ、毎日献立を考え、日替わりでいろいろなおかずを作るのは正直大変だし、面倒くさいこともある。もし一人暮らしだったら、絶対にそれほど頑張らない。一度に沢山作って2,3日は同じものを食べ続けたり、納豆ご飯や卵かけご飯で済ませることも多くなるだろう。
料理をするモチベーションは間違いなく旦那に対する愛情だ。彼に美味しいと喜んでもらいたい。いろいろなものを食べて毎日元気でいてほしい。そんな気持ちがなければとてもやっていられない。
文章から誤解してほしくないのだが、彼は料理や家事を女の仕事だと考えている訳ではなく、料理以外の家事、とりわけ得意な掃除は分担して私より余程丁寧にやっている。
喧嘩もするけど、なんだかんだ優しい旦那が私は好きで、彼と会話をしながら食事をとる時間、彼が私の料理をおいしいと言ってくれる瞬間。私は幸せに包まれるのだ。

結婚生活5年目で悟ったこと。料理が嫌いでないことと、日常の料理ができることは別物。だが愛情があれば伸びしろは無限大である。