私にとってキッチンは、時々によって意味が異なる。そして、今は、結構好きな場所になっている。

実家にいたとき、キッチンに立つことは大人になる為の必須科目だった。幼い時から時々母の手伝いをしていて、子供ながらに楽しくやっていた。玉ねぎは切ると目に染みて痛いから、わざわざ水泳のゴーグルをつけてやっていた。母は料理に限らず、家事全般ができるようにと、お風呂掃除や洗濯ものたたみを私たち姉妹に振っていた。なぜだかわからないけれど、両親がフルタイムの共働きで、そうせざるを得なかったんだろう。

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中学生も終わりごろになると、晩御飯をわたしたち姉妹の誰かが準備しなくてはいけなくなった。部活を早抜けしてキッチンに立つ。なんで思いっきり出来ないんだろう、今頃みんなまだ練習してるんだろうなと思いながら、オイシックスの様な晩御飯を作っていた。めんどうくさいなあと、まあ母がちょっと癒されるんならいいかと軽く考えていた。妹と交代しながら、でもだんだん私も大学生になりバイトを始めたことから、末の妹がキッチンに立つことが増えていった。

一応の料理スキルは身につけていたから、1人暮らしをした時にもご飯の心配はしていなかった。初めのうちは自炊していたし、なんなら一人暮らし初の料理は大好物の炊き込みご飯だった。でもそれも長く続くわけではなかった。特に1人暮らし3年目で社会人生活が始まってからは、頑張って汁物を作り、お皿を洗うただの「場所」と化していた。一人で30分くらいかけて作っても、食べるのは10分で終わってしまう。なんとなくむなしくもなる。「毎日毎日作ってなんていられないや」。そんな投げやりな感情も出ていたから、だんだんゴミ箱にスーバーのお惣菜パックが増えていった。

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でも、そんな場所にも変化が起こった。結婚を前提にお付き合いしている彼の誕生日、ハンバーグを作ることにしたのだ。一気に楽しい場所に変わる。彼の喜ぶ顔を想像しながら作ると時間が秒で過ぎ去っていく。「これぐらいかな?」と思いながら煮込みハンバーグの火を止める。トマトソースの香りと、おいしそうな肉汁に、思わずよだれが出るほどだった。いざ一緒に実食。幸せそうで、溶けてしまいそうな彼の表情。「うまい、本当にうまい」と。「ありがとうね、ほんとにうれしい」とハグとともに言われた。1Kの狭いキッチンでも人を幸せにできるんだと思うと、嬉しくなった。

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そんな彼と、今同棲をしている。2DKのキッチン。夜勤明けや公休日、早出や日勤の日の晩御飯どき。冷蔵庫の中身を見ながら、買い物をしてキッチンに立つ。「みやびちゃんのごはんホンマにおいしい!僕幸せ太りしちゃいそう」という声を思い出しながら。出来上がったおかずをおいしそうに口に放り込み、ほぼ毎回ごはんをお代わりする彼の表情は、私を今日もキッチンに立たせてくれる。食べっぷりが何より見ていて気持ちがいいのだ。こんなに料理に対してモチベーションが上がったことは、人生においてなかった。私の作る料理で、彼が幸せになる。最高すぎてたまらない。

今の私にとってキッチンは、幸せを作る楽しい工房だ。