初めに断りを入れておくと、本エッセイでは、職場で私の教育係を担当して下さった、恐ろしい程に仕事が出来る気怠げスーパーイケメンこと「Kさん」について言及している。
もしお時間がある方がいれば、以前投稿した拙文『イケメンの教育係との交流の中で、社会での人付き合いについて考えた』に一度目を通して頂けると、Kさんの人柄などについて予め知ることが出来、本エッセイを読むのがより楽しくなる……かもしれない。よろしければ是非。

怒涛の新卒1年目が過ぎ去り、「先輩」と呼ばれ始める頃合いがすぐ側までやって来た。
1年目では教育係のKさんと毎月面談をしていたが、2年目以降はそれが無くなる。
ということは、部署の、ひいては会社の戦力として、独り立ちをしなければならないということだ。

この1年間、Kさんの近くで一緒に仕事をしてきて、Kさんという謎多き存在の生態を多少なりとも知ることが出来たし、社会人やエンジニアとして学ぶことも多かった。
先輩のことはもちろん大好きだが、あえてこの場を借りて申し上げたい。
私にとってKさんは尊敬出来る「先輩」だが、「反面教師」にしたいところも沢山ある。

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Kさんの尊敬しているところ。
常に冷静沈着。論理的思考力に長けていて、システム設計の根幹はKさんがキーパーソンになっていた。その能力は、ベテランの先輩方もこぞって一目置いているほどだ。
また、本人の寡黙な性格にも関わるが、Kさんは良くも悪くも「職人」である。他者に干渉すること・されることを好まないし、直属の後輩である私視点では「背中を見て育て」タイプなのかもしれない。とか言いつつ、Kさん自身は微塵もそんな自覚が無いのだろうけど。その自覚の無さとお顔の強さも相まって、飾り気のない純粋冷徹な「クール」に見えてしまうのがまた悔しい。
加えて、とにかく几帳面。作成書類の行頭の位置まで指摘された暁には「細かっ……鬼かよ……」と不満を垂れ流したくなったが、フォーマットの些細な違いが業務における大きな手戻りや苛立ちを呼び起こすことに気づいた今となっては、非常に感謝している。

対して、Kさんを反面教師にしたいところ。
Kさんは、とにかく言い回しがネガティブだ。面談で伺った数々のネガティブ名言(迷言?)は、ポジティブ思考変換検定一級を取れそうな私でさえ心がちょっと折れかけたほどだ(具体的な言葉は文字数の都合で載せられないが、冒頭に紹介した以前のエッセイを読んで頂けると、どんな感じのことを言う人か何となく掴めるかもしれない)。
基本的に私は褒められて伸びるタイプゆえ、面談でも励ましの言葉などをかけられたかったが、褒めてこないどころか私の愚痴をKさんのマイナス思考で上書きされたことも少なくなかったため、一年を通じて違和感を覚えていた。
また、先ほどKさんが「背中を見て育て」タイプであることに触れたが、悪く言うと「放任主義」なところが少なからずある。こちらから助けを求める分には応じてくれるし、非常に頼りになる先輩ではあるが、向こうから私のことを気にかけてくる言動はほぼ見られない。つい最近になって、Kさんの後ろ向き発言の向こう側で、「あ、Kさん、何だかんだ私のことを気にしてくれているんだな……」とうっすら感じられる瞬間が生まれたが、正直もうちょっと早い段階からそのことを言って下さると、後輩の私としても非常に助けを求めやすかったのにな……と思ったりもした。

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Kさんを筆頭に、全てが完璧な先輩なんているはずがない。
人間、良いところと悪いところの両面があって初めて「人間臭さ」が生まれてくるし、所詮「先輩」とは、その職場やコミュニティにたまたま先に所属した「人間」だ。
Kさんの背中を1年追い続けて、私の中の「先輩」像は、神や仏のような崇め称えるものから、身近にある「人間」同士の関係から生まれるものへと変化した。

そんな「先輩」像を良い意味でぶち壊された今、私は人間味のある「先輩」になりたいと思っている。
まずは、自分から声をかけてあげられる先輩。
新人さんが自ら動くことも勿論大事だが、「何をしたらいいか分からない」状態の配属当初は、私から積極的に梯子や道になって導けるようになりたい。コロナ禍の影響も少しずつ緩みつつあるため、一緒にランチや飲み会なども行けるようになれば尚良いかもしれない。それによって、後輩も先輩の私に声をかけやすくなってくれると信じたい。
そして、ポジティブな影響を与えられる先輩。
会社で働いていると、多かれ少なかれ不満は出てくる。しかし、不満を周りにばら撒いてばかりでは部署の暗い雰囲気を助長するだけだ。自分がネガティブなことを言う場合は、言い方・相手・場面・頻度を考え、逆に相手にネガティブなことを言われた場合は、相手の気持ちを受け止めつつ、可能な限り前向きな方向に転換出来るよう導きたい。

親近感のある優しくて頼りになる先輩。
言葉だけでは簡単だが、いざこの立場が身近になってくると、非常に高難易度だと実感させられる。
それでも、私が見てきた「背中」を参考に、私独自の「背中」を作り上げたい。