Can you speak Japanese?

後ろから急に話しかけられて振り向いたとき、視界に飛び込んできたのは、日焼けした肌にニカッとした笑顔がよく似合う背の高い男だった。

中学からの親友と、大学の卒業を祝って計画した旅行で選んだ行き先はグアムだった。
2月、寒さにうんざりしてた私は、数日だけでも南国に逃げられることにわくわくしていた。
短パンにTシャツ、花柄のワンピース、思いっきり夏の格好をして楽しむんだと決めて、日本を出発した。

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あれは確か2日目の夜。
朝からいろんなところに行って、ホテルまでの最終バスにピザをくわえながら慌てて乗ったりして、友達とゲラゲラ笑ってた。
ホテルに着いたのはもう22時ごろだったけれど、夜のビーチに行きたいねなんて盛り上がっちゃって、スマホと財布だけ引っ掴んで部屋を出た。

ビーチに向かうために突っ切ったホテルのフロントで、明らかに日本人だとわかる見た目のわたしたちに、日本語話せる?これから米軍がたくさんいるところに一緒に飲みに行かない?なんて英語で聞いてきた2人の男は、日米合同訓練のためにグアムにきていた日本の軍人だった。

片方の男しか目に入らなかった。彼もわたしのことしか見ていなかった。4人で飲みに行くのもアリだったけど、彼と2人で過ごしてみたかった。その場ではサラリと誘いを断り、連絡先の入手に成功したわたしは早速連絡をしてみた。

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やりとりがうまく続いていた頃、また道端で彼に偶然会った。わたしを見つめる目が明らかに惚れているときのそれだったから、確信した。彼はわたしを好きだと。
一夜限りでもいいから彼と時間を共にしてみたかった。卒業旅行だったから浮ついていたせいかもしれない。早速次の日の夜に2人で会う約束を取り付けて、わたしたちは米軍が多くいるバーで真夜中まで飲み明かした。

そのとき聞いた話だけど、わたしたちに声をかけてくれた数秒前、彼はわたしに一目惚れをしたらしい。決死の覚悟で話しかけたんだと説明する彼は、その辺のイカつい外人よりも誰よりもかっこよかった。結局ビーチで朝方まで一緒にいたわたしたちは、すっかり恋に落ちていた。

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日本への帰国日がほぼ同じだったわたしたちは、グアムでのひとときを胸に、現実世界へ帰ってくることとなった。
少しあとの話しになるが、わたしと彼はきちんと恋人になった。福岡と東京での遠距離恋愛が始まって、まさか自分がこんな形の恋愛をすることになるなんて夢にも思っていなかったからなんとなくずっと幻のように感じていた。

お互いの友達や周囲の人に紹介したりなんてして、順調に進んでいった。本当にわたしを大事にしてくれるし、愛されているんだと分かるから、わたしは堂々と安心した毎日を過ごすことができる。

今思えばわたしも、振り向いたあの瞬間、彼を初めて見たあの瞬間、一目で惚れていたんだと思う。たしかに運命のようなものを感じて、たとえこの先別々の道を進む日がきたとしても、きっと一生忘れないだろう。

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1年前にこの先も共に過ごすのだろうと思っていた他の男と観た映画はトップガンだった。二股をかけられて玉砕して、映画に罪はないけどタイトルも聞きたくないくらいあの映画が大嫌いになった。

でも、1年後にはあんなに恨んでいた映画の中の仕事をしている男と出会って人生を共にしている。人生はいつなにが起こるかわからない。
もしも卒業旅行先をグアムにしていなかったら。
もしもあの日、ビーチに行こうとしていなかったら。
もしも彼がわたしを見つけることができずすれ違ってしまっていたら。
ただただ、幸運な出来事だった。

そしてわたしたちは来年、ついに結婚する。