一年ほど前までは、帰宅部のエースを張っていた。帰りのホームルームが終わると一言も発することなく帰宅していた高校時代。友達の数は片手で容易に収まるほど。年上の知り合いなんて一人もいなかった。周りから見たら、典型的な「陰キャ」と呼ばれる子だったと思う。だからこそ大学二年になろうとしている今、先輩としての振る舞いがわからなくて焦っている。

◎          ◎

先輩という生き物に初めて会ったのは、中学生の時。それまで先輩後輩をあまり気にせず、のほほんと生きてきた私の前に、一線が引かれた。セーラー服の赤色のタイは三年生しかつけてはいけないという暗黙のルール。異を唱える勇気もない私は胸に陰鬱な青色のタイをつけていやいや学校に通った。部活は、ちょっとだけかじっていた音楽の経験から、吹奏楽部を選択。それが私の中の「先輩」像を狂わせたと思っている。

その吹奏楽部は、強豪でもなければ弱小でもない、まあまあなコンクールである程度の賞をもらえるレベル。体育会系の上下関係を採用していて、先輩と後輩の線引きが厳しかった。顧問はひたすら先輩を褒めそやし、入学したばかりの一年を徹底的にけなすことで部の安寧を保っていた。先輩の言うことはすべて正しい。後輩は絶対服従。

当時、その部活には、小学校で一緒に音楽をやっていた年上の人がたくさんいた。音楽をしてない時は、一緒に鬼ごっこをして遊んでいた人たちだった。そんな人たちがいきなり怖い先輩になって、先生と一緒に自分たち後輩のあらを探し出す空間は異様だった。様々な要因も相まってその部活はやめたが、一度心を許した人たちに裏切られた気分だった。

◎          ◎

中学での心の傷をいやすようにひたすらアニメに青春をささげた高校生活はさておき、大学に入ってからも、私はのらりくらりと面倒な人間関係から逃げ続けていた。そんな私を気遣って、大学の先生が先輩を紹介してくださることがあった。実際にお話させてもらうと先輩はとても親切だったが、なにか壁のようなものを感じた。

大きな変化を好まず、いいかげんな態度で大学生活を消費していたある日、ずっと同い年だと思っていた友人が年上だったことを知った。とても価値観が合うし、授業の悩みでも、ちょっとした笑い話でもなんでも話せる友人。もちろんタメ口で。だから、年齢のことは聞いていなかったけど無意識で同じ年齢だと思っていた。もちろんこの程度のことは、大学生にとって日常茶飯事だと思う。だが私が驚いたのは、年齢でいえば「先輩」にあたる人と、とても仲良くなっていたことだった。

◎          ◎

そこでやっと、自分が「先輩と仲良くなるのを怖がっている」ことに気づいた。中学で、上下関係がたやすく友情を壊す事実を突き付けられた私。だから、新しく出会った先輩にも、心を許した後に裏切られるかもしれないと勝手に恐れて、予防線を張っていた。中学以降に出会った先輩とはあまり打ち解けられなかった。私が無意識のうちに、先輩という存在を怖がり、壁を作り出していたのだろう。

これまで親切にしてくれた先輩に申し訳なかったこと、先輩と関わるチャンスを無駄にしていたことに対する後悔はある。ただ自分が先輩になる前に、自分の心に気づけて良かったと思う。

これらの経験を経て「上下関係は取り扱い注意」としみじみ思う。先輩だからといって、偉ぶりたくないし、後輩が媚びなくてもいい器の広い先輩になりたい。

人間関係から逃げ回ったせいで、まだ「先輩」とは何か明確な答えを持っていない私も、あと数日で先輩になってしまう。とりあえず、反面教師になってくれた中学の先輩たちに感謝しつつ、自分は後輩の手本となれるように自分磨きを頑張りたい。