それは1本の電話から始まりました。
「先生、4月からオーストラリアに行くから飲みいこう!」
10年前の私には想像できない幸せな出来事でした。

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私は流行り病になり、1人暮らしのお家で療養生活を送っていました。  徐々に体調は良くなり、今まで読んでいなかった本やお部屋の片づけをしていました。 いつも通りに寝ようとしていたら、電話がかかってきました。

(こんな時間に誰だろう…?)  と思い、画面を見ると10年前の教え子から。

電話を取るとざわざわした居酒屋さんにいる模様。(あれ間違い電話?)すぐに切りました。

そしたら、また着信が…(あ、間違いじゃないのか!)と思って、電話を取ると10年ぶりに彼女の声が聞こえてきました。 ぼーっとしながら懐かしさが込み上がりました。

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10年前に塾講師のアルバイトをしていました。 夏休み前に塾へ来た中学3年生の女の子を担当する事になりました。  その子は複雑な子。ザ・思春期、反抗期、プライドが高く、負けず嫌い。 私は数学を受け持ち、その子が頑張ってくれたおかげで、彼女の数学の偏差値が10上がりました。

頑張り屋さんの彼女に結果がついてきて、その時は2人で喜びました。 受験が近づいてくるとピリピリしたり、情緒不安定になったり… そんな彼女を私は支える事しか出来ませんでした。

志望校の合格が決まった瞬間、安心してホッとして肩の荷がおりました。 一番覚えている、思い入れのある生徒。 そんな彼女は「これってどういうこと?」と悩みすぎてしまう子。でも、表現するのも苦手な子。

だから、彼女が退塾したあとも、私が塾講師を辞めたあとも、 (元気かな、大丈夫かな)とふとした瞬間に思い出す気になる子でした。

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コロナ禍に入る直前、塾講師の仲間から彼女の連絡先を教えてもらいました。連絡すると元気そうで、安心しました。

会いたかったのですが、なかなか都合や世間の流れで会えないまま…。 (そろそろ会えるかなぁ)と思っていても行動に移せませんでした。

だから、彼女から電話が来たときはとても嬉しかった。

「先生、4月からオーストラリアに行くから会いたい!」

ただ、オーストラリアの部分は疑問でした。あれ、今なにしているんだろう?
聴きたいこと、話したいことたくさんあるなぁ。 ワクワクしながら当日を迎えました。

会った瞬間にあの頃へ戻れた感覚になりました。大人にはなっているものの、中学時代と変わらない雰囲気で(10年経っているんだよね?)という程、自然にお話が出来ました。

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相も変わらず不器用に生きていて、でも変わったのは彼女の中にあるお話を聞かせてくれること。成長したところ、悩んでいるところが見え、繊細でかっこよい女性でした。

彼女とお話出来るのは最高に幸せでした。 お互い思っている事を議論する時間。 話すことに夢中になりすぎて、全然ご飯が進まなかった、私にとっては珍しい飲み会でした。

もっと話したかった。1日じゃ足りなかった。 1年後に彼女は日本に帰ってくる予定。 そのときまでに私も成長しよう。頑張ろう。

彼女と対等に話せること。それが私の人生で学び続ける1つの理由。