またか。まあいいか。寂しくてもやっていくしかないか。でもこれから行きたくないなあ。今日一日のことを振り返るだけで、憂鬱さが増していく。自分の本音を隠してしまうこと、人を信じられないこと。大学で、この2つのことを克服しようと決めていた。でも無理そうだった。これらに向き合える余裕はなくて、まずこれからを生きていくだけで精一杯な気がする。

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 中くらいの大きさの講堂で開かれたオリエンテーションで、私は一番端っこの席だった。このままの自分ではいけないと、誰か一人には話しかけます、と風呂場で呟いたのをぼんやりと思い出す。あ、港区女子。この人が隣か。勝手に気まずさを感じていたのも束の間、彼女から「暑くない?」と声をかけられた。

きっと、彼女はすぐどこかに行くのだろうと思いながら、『演じる』モードになって、にこやかに会話に応じる。彼女は一人で行動したくはないのだろうな。だから。貼り付いた笑顔のまま首を縦に振り、おにぎりをリュックの底に押し込んだ。私は、彼女と学食へ向かった。

だんだん話すことがなくなっていく。マスクが外された素顔がこわばっていくのが見える。そりゃそうだよね。ごめんね。私も頑張ってるんだけど。上辺だけ取り繕うのも、こんな雰囲気になるのも慣れてる。

でも、どうやって距離が縮まるのかは分からないまま。結局私が逃げてるんだって分かってるけど、急に底知れない暗闇を見せる訳にもいかないだろう?彼女を困らせるだけなのも知っている。案の定、彼女とは別れて、似たような人たちの中で楽しそうに笑っている彼女を見た。よかったね。居場所、見つけられて。

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同じ学部の中でも、気の合いそうな人はいなかった。彼女たちのテンポは早く、言葉を考えてしまう私は付いてはいけないと感じた。私はインスタ、というのはしていないのだけど、学部内の女子たちがインスタ交換たるものをしているのには驚いた。もうLINEではないらしい。確かに一人でいるのは寂しい。だけど怖くはないし、慣れてもいる。けれど、そんなこれからの日々を思うたび、冒頭の言葉が心に浮かんできてしまった。

他にサークル活動もあるし、アルバイトでの人付き合いもある。これだけが私の大学生活ではないと分かってはいる。ただ改めて、「自分の本音を隠さないこと」「人を信じること」の難しさを感じる。

やっぱり傷付くのが怖くて、本音という心の一番奥にあるものを明かすことができない。それでも、信頼できる大切な人たちに心の内を吐露して、心配させたくもない。それでいて、私自身を理解してくれる人を求め過ぎるが故に、信じる気持ちが暴走し、執着になってしまった失敗も頭をよぎる。そうして結局、『いつかの日々』に全てを託してしまう。

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本音を隠さずに言えたり、信じたりすることができるような誰かを見つけられて解決、としたかったけれど、そんな風にはならない。ならば自分で挑戦、としたかったけれど、それも今すぐには難しい。

だから、せめて、誰かが本音を打ち明けてくれたときには、その心に寄り添える存在になりたい。私自身が感じた痛みならば分かるから、過去の経験がもたらした痛みを癒し、生かしていくためにも、誰かの心を慰めることができたなら、と思っている。