「散歩がてら、東京行くか」
時刻は19時を回ったところ。制服から私服に着替えながら、「明日は休みだし」と頭の中で付け足す。退勤後のロッカールームには私以外皆無で、静けさとは相反するように、私の心は昂っていた。

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「フットワークは軽い方か?」と問われれば、迷わずイエスと答える。それに加えて好奇心旺盛な性分で、思い立ったらすぐ行動。誰に何と言われようと自分を曲げたくない主義である。ところが正直な話、大勢が集まる飲み会等はあまり得意ではないので、時と場合によりけりな部分は多少ある。それでも、いっときの感情に身を任せ、水面に浮かぶ葉の如く、「なるようになるさ」と思うことに対して心地よく感じることも多い。今がまさにその時だ。栃木から東京までの長い長い道のり。「散歩がてらの東京探索〜退勤後の大冒険〜」である。

コロナウイルスが流行る前は、頻繁に東京へと足を運んでいた。栃木の最寄駅から東京まで乗り換えなしで電車で1本。2時間程はかかるとしても、寝ていればあっという間に着いてしまう。赴く理由はさまざまだったが、ほとんどは音楽に関することだった。クラブやライブハウスでのイベントだったり、都内のレコード屋を回ったり、栃木で味わう空間とはまた違う空気を全身に感じる瞬間が毎回たまらなかった。今回の「散歩がてらの東京探索」は私が20代前半の頃の話。つまりは5年ほど前の出来事である。何の準備も無しに急に思いついてしまうので、東京のどこでどんなイベントが行われているのか、電車は何時発なのか、明日の始発まで一体どこでどう過ごすのか、何も整理できていない状況だ。それでも当時の私には何も不安なんてなかった。「ここじゃないどこかに行きたい」という、心の底から湧き上がる、我慢できないほどの思いを、シンプルに行動に移すだけなのだから。

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別に栃木が嫌いなわけではない。誰にだって、「あぁ、遠くへ行きたいな」と思う瞬間があるはずだ。私の場合、それが突発的に、それも結構頻繁に起こるだけの話なのだ。「お仕事頑張った自分にご褒美あげなきゃ」という感覚に近いのかもしれない。計画性の無い「ご褒美」こそが、未知との遭遇へと誘う、最高にクレイジーな刺激である。

平日とはいえ、やはり東京は東京。どこを見ても人、ライト、人。先程までいた場所から約2時間で、別世界にワープした気分だ。どこへ行こう、何をしよう。ここでは誰も私を知らない、私も誰も知らない。なんだかとても自由になった気分。それはきっと東京以外の土地でも味わえることかもしれないが、やはり東京は特別。私の好きな有名人が数キロ圏内にいるかもしれない、なんて考えるだけでドキドキしてしまう。まぁ、実際に遭遇したことはないのだが。とりあえず気になっていたお店に足を踏み入れる。ハイボールとおつまみを頼み、空腹を満たしながら、心も徐々に満たされていく。同じお酒でも飲む場所が変われば、なんだか違う味わいのように感じる。ネオンに照らされて、また一口。好きな音楽とお酒と、そしてどうしようもなくヤンチャな自分。なにもかも忘れて別世界東京に浸る夜は、お楽しみであり特別なのだ。

ここ数年で東京へ足を運ぶ機会は減ってしまったが、好奇心が湧き上がる日は近いように思える。「散歩」の続きをしなくては、と昂る気持ちを感じながら。