私には、会ったことはないしこれからも会うことは無いだろうけれど、よく知っている女の子がいる。
みつきちゃん(仮名)。現在中学3年生の女の子だ。
会ったこともない中学生のことをよく知っているなんて、さぞ不気味な筆者だと思われたことだろう。
まぁたしかに不気味ではあるのだけれど、別にこそこそと彼女の周りを嗅ぎ回って情報を仕入れたりしたわけではない。
彼女は、母のパート仲間である女性の娘さんなのだ。
母の勤める会社には、パートさんは母とその女性の2人しかいない。それでいて、閑散期は結構暇だそうで、2人で会話に花を咲かせているらしい。そこで聞いたみつきちゃんの話を母から聞いているから、私は彼女についてよく知っているのだ。

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みつきちゃんはテニス部に所属しているそうだ。明るくて、友達の多い子だという。中学時代の私とは正反対だ。
どこまで本気か分からないけれど、みつきちゃんは香川の大学を志望している。理由は、うどんが好きだから。在学期間中に香川県中のうどんを食べて回るのが夢だそうだ。中学生の女の子の夢としてはいささか幼くて、素朴で、可愛らしい。
ちなみに九州の大学にも惹かれているとのこと。こちらも、実際に彼女を惹きつけているのは九州の大学ではなく、九州にある食べ物たちらしい。
このようなお茶目なエピソードから、私はすっかりみつきちゃんのファンになってしまった。母の口からみつきちゃんの名前が出ると、ワクワクしてしまうようになった。

冒頭でも述べたが、みつきちゃんは中学3年生。今年は高校受験に挑んでいた。
彼女の受験に関する話はちょこちょこ聞かされていた。友達と同じ塾に通いはじめたとか、そのわりにはドラマばかり見て勉強していないとか。そして彼女は秋頃に志望校を固めた。そこはなんと、私が通っていた高校だった。
彼女の成績からすると、受かるかはどうか五分五分、という感じだったらしい。それでも、家からの距離や雰囲気からすると、この高校がちょうど良かったそうだ。
受験が近づくと、全く関係がないのに私までソワソワしてしまった。新聞に載る出願倍率をチェックしてしまったりもした。

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そして迎えた合格発表の日。……と言っても、パートのシフトの関係もあって、私が母から結果を聞いたのは発表の日の数日後だったのだけれど。
「落ちちゃったんだって」
その言葉を聞いた瞬間、ズンと気持ちが沈んだ。実際、そんなこと思う資格もないような間柄なのに、勝手に沈んでしまった。
滑り止めの高校にはすでに受かっていたものの、当の本人はかなり落ち込んでいたらしい。
私は、母校の悪いところを母に伝えた。学校祭がしょぼいこと、校内に埃が多いこと、教室が狭いことなど。これらをみつきちゃんのお母さんからみつきちゃんに伝えてもらって「滑り止めの方に通うことになってよかったかも!」と思わせようと企んだ。
が、母に「そんなの、受かった側の人間から言ったら嫌味にしかならないでしょう」と言われてしまった。それは確かにそうだ。
母校のイメージダウン作戦が失敗し、何もできない(しなくていいのだれけど)状況にやきもきしつつ、数日が過ぎた。
最初の知らせを受けてから5日ほど経った日に、パートから帰ってきた母が言った。
「みつきちゃん、追加合格になったって」
えーーー!と、大きめの声が出た。高校から電話がかかってきたらしい。
良かった。本当に良かった。
あと、母校の悪口も伝えなくて良かった。危ないところだった。
ちなみに、落ち込んだみつきちゃんを励ますため、みつきちゃんのご家族は色々と力を尽くしたらしい。
お母さんは欲しがっていた漫画を、遠くに住んでいるおばあちゃんは高級なフルーツをプレゼントしたという。
最終的に合格も果たしたのだから、みつきちゃんとしては一番ラッキーな展開だったんじゃないだろうか。

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春から私の後輩になるみつきちゃん。
私は10期も先輩だから、私が感じていた母校の悪いところは、既に改善されているかもしれません。学校祭は制約が減って豪華になっているかもしれないし、埃も清掃が行き届くようになって減っているかもしれないし、教室は……多分広くはなっていないだろうけれど。仮に何も改善されていなかったとしても、みつきちゃんならきっと3年間楽しく過ごせることでしょう。
たくさん楽しみつつ、それなりに学んで、香川の大学生になるための礎を築いてください。
こんなメッセージも伝えられたら気持ち悪く思われるだろうから、ここに閉じ込めておきます。