「My dog(dawg).」

ベッドのなかで呟かれた言葉は、いまもわたしの心の拠り所となっている。

彼との関係性を、社会一般的にひとことで表現するとしたら、セックスフレンドになるのだと思う。でも、わたし個人としては、そんな陳腐な言葉で表現したくない。

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出会いのきっかけは、昨今ではすっかり社会に定着しているマッチングアプリ。
危険な香りのする男性に惹かれるお年頃なんて、とっくのとうに過ぎているというのに、身体中のタトゥーが写されている画面を眺めていたら、「いいね」をタップしてしまっていた。
いくつかわたしより年上だというのに、厳格さのないフランクな語り口。
なんとなくだけれど、男女関係なく友達が多いひとなのだと思案していたら、彼から衝撃的なメッセージが送られてきた。

「おれ、◯◯の幼馴染だよ」
◯◯とは、ここでは具体的な名前を伏せるが、わたしが敬愛してやまない、あるひとりのラッパーさんの名前だった。
ひとりでにテンションの激昂した夜更け、ふと、打算的な考えが脳裏によぎる。
このひとと仲良くなれば、いずれは◯◯さんに直接会えるようになるのでは?
我ながら、最低な思惑だとは理解していたが、もう自分を止めることはできなかった。

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とんとん拍子で食事の日程を調整し、あっという間に予定の当日を迎えた。
お洒落なレストランでひとり待っていると、あらかじめ交換しておいた連絡先からメッセージが送られてきた。

「一時間くらい遅れる!」
普通は、こんなメッセージを見たら、多少なりとも落胆するものだろうに、打算的なわたしは、よりうきうきしていた。
実は、前述した◯◯さんも、ヘッズことファンの間では、遅刻魔として有名なのだ。
だからこそ、◯◯さんとそっくりな彼に対して、ある種の親近感を覚えていた。

第一印象は、やさしそうなひと。
「写真よりも可愛いね」
さらりとほめられた一言が、純粋に嬉しかった。
今でもそうだけれど、彼との会話は、他の誰とも比べられないくらいに、興味深いものがある。

タトゥーの意味をひとつひとつ聞いてみると、壮絶な過去を乗り越えてきたことが想像できる。先輩や後輩の話をしているときは、自分のことよりも自慢気で、見聞きしているこちらまで楽しくなるくらい、にこにこしている。
そうかと思えば、自分のことには無頓着なのか、心配になるようなことも悠々と言ってのける。気が付いたら、◯◯さんのことなんて忘れて、彼の言動に振り回されていた。

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おとなになれば、体に触れられてもいいと思えるひとの、ひとりやふたりくらいは現れるのかもしれない。
けれども、心に触れられてもいいと思えるひとは、限られてくるのではないだろうか。
彼は、そんな境界線を越えてくる、いや、越えてきてくれるひとだ。
そう自覚した瞬間、とてもあたたかい気持ちを抱いた。
だから、体も心も触れられてもいいと、自然に思うことができたのだ。

彼との行く末がどうなるかは、まだわからない。
願わくは、お互いの将来が明るく幸せであることを祈るばかりである。