私の周りはたまたま「ホスト狂い(=ホストクラブ通いにハマってしまう子)」が多い。
度々、彼女たちから各地方にあるホストクラブへのお誘いをいただくが、以前エッセイに書いた1度しか足を踏み入れたことはない。(博多弁で「いつ帰省すると?」。ホストの問いに不覚にもキュンとした)

「ホスト狂い」の彼女たちは少なからず「彼の本指名ランキング1位になりたい」とか、「彼の本カノ(=本命の彼女)になりたい」という希望を持っていたりする。

そんな彼女たちに近しい希望を、美容師さんに対して抱いていたことがあるので、小っ恥ずかしいけれど、このエッセイに記して昇華したいと思う。

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数年ほど前から、美容師やネイリストなどサロンスタッフのキャリアやスキルに合わせ、客が希望に合ったサロンスタッフに直接予約が取れるというアプリが存在している。

度々エッセイで話題にするが、裕福ではない家庭から大学進学を機に上京させてもらった私は、サロン代すらも浮かせたかったのだ。

そのアプリを利用して、2ヶ月に1回くらいのペースで毎回違う美容師さんの元で髪のメンテナンスに行っていたある日。

いつも通り、無料でカットしてくれるサロンを探していたところ、大学の近くのサロンでまだアシスタントをしている美容師の男性が募集をかけていた。
「学校帰りに寄りやすい」というたったそれだけの理由で予約を入れた。

お店に着くと、アプリのアイコン通りに柔和な雰囲気を漂わせ、塩顔でツイストパーマにおしゃれメガネをかけた美容師の男性が出迎えてくれた。
その見た目から、失礼承知で「塩焼きそばさん」とここでは呼ばせてもらう。

カットをしてもらっている最中、出身地の話になった。
すると、偶然にも「塩焼きそばさん」の実家も九州。そして、驚くことに私の祖母の家の近くだった。
しかもその祖母もかつて理容師をしていたことがある。
当時、ハタチ前後でまだまだ夢見る夢子ちゃんだった私は「『塩焼きそばさん』は運命の人かもしれない!」なんて思い、「塩焼きそばさん」との距離を縮めたいという気持ちが湧いてきた。

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その翌月ぐらいのことだっただろう。
「塩焼きそばさん」から「サロンモデルをやっていただきたくて」という連絡をいただいた。
もちろん二つ返事で「私なんかでいいんですか?」と引き受けた。
(「その返答はプロポーズじゃないんだから」と当時の自分にツッコミを入れたくなる)

サロンモデルをした当日は、「塩焼きそばさん」の同僚の美容師さん達も、それぞれご贔屓にしてもらっている客にサロンモデルを頼んでいたようだった。
ある男性の美容師さんから冗談で「『塩焼きそばさん』の彼女さんっすか?」と言われただけで、顔から火が出そうなくらい嬉しかった。
振り返ると、とてつもなく当時の私はうぶだった。

サロンモデルをさせていただいてしばらくした頃。「塩焼きそばさん」はスタイリストに昇格。
それからは無料ではなく正規料金での施術となったのだが、毎月2万円ほどのお金を出して「塩焼きそばさん」にカットやカラーをしてもらっていうのが、密かな楽しみになっていた。

「塩焼きそばさん」は「アシスタント時代からリサさんにはお世話になっているので」なんて言って、指名料の2,000円はいつもチャラにしてくれていた。
そんな「塩焼きそばさん」の“善意”を、「あなたのために」という“好意”として受け取ってしまっていた私は、どんどん「塩焼きそばさん」への気持ちが加速していった。

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サロンに通い始めて1年くらい経った頃。

毎月のようにサロンに顔を出すと、残念な知らせがあった。
「九州の実家がサロンを経営していて、そこを引き継ぐことになったので、田舎に帰ることになりました」
柔和な雰囲気の「塩焼きそばさん」が申し訳なさそうにそう話すので、「え〜!寂しくなりますね!これまでお世話になりました!」と空元気に返答したのだが。
内心、「『塩焼きそばさん』と会えなくなるのか」とショックで堪らなかった。

それから半年ほど経った頃だったと思う。

「塩焼きそばさん」の同僚の美容師さんのインスタグラムで、「塩焼きそばさん」が結婚式を挙げていたことを知った。
さらに、その投稿で、実家のサロンを引き継ぐ前に結婚していたことも知り、「素敵な『塩焼きそばさん』には素敵な彼女が居たわけで。こうして夫婦(めおと)になっていくんだ」という現実を突き付けられた。

胸はギューっと締め付けられているのに、顔の表情筋が機能停止するような感覚に襲われた。
夢見る夢子ちゃんだった私は、この時に恋愛における絶望を初めて味わったのだ。

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あの時のことを振り返ると、「ホスト狂い」の子たちと近からず遠からずな道を歩んでいたことに気付く。
要は「類は友を呼ぶ」のだ。

私たち、と十把一絡げ(じっぱひとからげ)にするのは申し訳ないが。
私たちは、接客業によるサービスのその先にある“善意”を“好意”として受け取ってしまうのか、そういう営業だと察せるのか。
はたまた本心からのアプローチなのかを見極めるのか、そんなの気にせずにこちらから猛アタックするのか。

恋愛のアンテナを常に張り巡らせたい気持ちはあるけども、ポキっと折れた経験があると、どうも電波をキャッチするのが難しくなってしまった。

「どうせ私は都合のいいオンナ候補なんだろう?」なんて捻くれずに、“善意”と“好意”を見極めていきたい今日この頃だ。